用語

ベンチ

ベンチ

4つの業界で、それぞれ別の意味で使われています。

スポーツ・フィットネス

ベンチ(野球・サッカーなどの控え席)

bench

野球場などで、監督・コーチ・選手などの控え席。転じて、監督・コーチのこと。

出典:デジタル大辞泉(小学館)/コトバンク

野球場やサッカー場で、監督・コーチ・控え選手が試合中に座る席。転じて監督・コーチ陣そのものを指し、「ベンチの指示」のように使う。試合の出場登録メンバーに入ることを「ベンチ入り」、外れることを「ベンチ外」と言う。

今日の試合は若手2人が初めてベンチ入りした。

自動車・輸送機器

試験台(テストベンチ)

test bench

エンジンやモーター、ドライブユニットなどの部品・ユニットを台に据えて動かし、出力や振動・騒音、燃焼などの特性を測る試験設備。「エンジンベンチ」「モーター性能ベンチ」のように試験対象を前に付けて呼び、台上で行う試験は「ベンチテスト」と言う。実走テストに比べ、短時間で繰り返し評価できる。

このモーターは先にベンチで極低速のトルクリップルを確認してから車両に載せる。

土木・測量

ベンチ(トンネル掘削の段)

bench cut

山岳トンネルで断面を上半と下半に分けて掘るときにできる段。上半を先に掘り進める方式を「上半先進ベンチカット工法」と言い、上半と下半の切羽の距離(ベンチ長)によって、ロングベンチ・ショートベンチ・ミニベンチなどに分ける。早期に断面を閉合したい地山では、ベンチ長を短くした工法が使われる。

この区間は地山が悪いので、ショートベンチカット工法で上半から先行する。

素材・化学

ベンチスケール(研究室とパイロットの中間規模)

bench scale

化学プロセスを工業化へ進めるとき、研究室規模とパイロットプラント規模のあいだに置くことがある中間の試験規模。Wikipedia は、ベンチスケールを研究室での探索段階の10〜200倍、パイロットプラント規模を研究室の200〜1000倍としている。規模を区切っておくことで、実際のプラント運転の前に理論的な検討や経済性の分析ができる。

ベンチスケールで収率が安定したので、次はパイロット設備での試験に進む。

座る台、載せる台、掘り残す段のベンチ

試合中のベンチには、控えの選手や監督が座っている。エンジンの試験に使うベンチに、座る人はいない。載っているのはエンジンだ。トンネルのベンチになると、人も機械も載らない。掘り残した段である。化学のベンチスケールに至っては、台ですらなく、規模の呼び名だ。

同じ語でも、ここまで物が違えば、つながりはないのかもしれない。

英語の bench を Wiktionary でたどると、古英語の benċ からゲルマン祖語へ行き着く。銀行の bank は bench の二重語(同じ語源から別の経路で英語に入った語)とされている。bank の先祖のイタリア語 banca は「両替商の台・カウンター」を表した。銀行の名は、もとは台の名前だった。

日本語のベンチも、台の仲間として見ると並べやすい。

スポーツでは、台に座るのが人だった。デジタル大辞泉(小学館)は、ベンチを「野球場などで、監督・コーチ・選手などの控え席。転じて、監督・コーチのこと。」と説明する。席の名前が、そこにいる人たちの名前になった。「ベンチの指示」と言えば、席ではなく監督やコーチ陣の指示を指す。

自動車の試験では、台に載るのが部品である。Honda の研究開発施設の紹介には、エンジン単体のベンチ、モーター単体のベンチ、エンジンの1気筒分だけを切り出した単気筒性能エンジンベンチ、と対象を前に付けた名前が並ぶ。「実走テストに比べ、短時間で繰り返し評価できる」のがベンチテストのよさで、車両に載せる前の確認の場になる。

ここで、化学のベンチスケールが同じ位置に収まる。Wikipedia の「Scale (chemistry)」は、ベンチスケールを発見段階の研究室の10〜200倍、その先のパイロットプラント規模を200〜1000倍としている。実験室のフラスコで見つけた反応を、いきなり工場へは持ち込まない。台の上の規模で確かめてから進む。エンジンを車両に載せる前にベンチへ据えるのと、順序は同じである。ただ、なぜ「ベンチ」と呼ぶのかは、この記事には書かれていない。実験台の上で扱える大きさだからだろうとは思う。それは推測で、確かめられていない。

トンネルのベンチは、この流れから外れる。山口大学の報告によると、上半と下半に分けて掘るベンチカット工法は、ベンチの長さで補助ベンチ、ミニベンチ、ショートベンチ、ロングベンチに分けられる。押出し性地山(掘ると周りの地山が坑内へ押し出してくる地山)では、断面を早く閉じ、切羽(掘っている先端の面)を自立させるために、ベンチ長を短くした工法が選ばれると整理されている。段が短いほど、断面は早く閉じる。

人が座れば控え席、部品が載れば試験台、掘り残せば段になる。日本語の四つが英語の bench から別々に入ったのか、一つの意味から分かれたのかは、確かめられていない。

ただ、控え席の選手、台上のモーター、収率が安定するまで置かれる中間の規模は、どれも本番の手前で待っている。「ベンチ入り」した若手が座る席も、その一つだ。