ボビン
ボビン
4つの業界で、それぞれ別の意味で使われています。
ミシンの下糸巻き・ボビンレースの糸巻き
bobbin
手芸で糸を巻いて使う小さな芯。ミシンでは針糸と組み合わせて縫い目をつくる下糸を巻き、機種に合うサイズのものを選ぶ。ボビンレースでは糸を巻いた多数のボビンを枕(クッション台)の上でピンの型に沿って交差させ、レースを編む。語源は糸巻きを表すフランス語 bobine とされる。
このミシンの下糸ボビンは機種専用なので、替えを買うなら型番を確かめてください。
コイルボビン(巻枠)
coil bobbin
トランスやインダクターで、導線を巻いてコイルをつくるための絶縁材の枠。中心の孔にフェライトなどの磁心を通し、両端の鍔(制限板)で巻線の範囲を決める。基板に差すための端子が一体になったものもある。糸ではなくエナメル線などの導線を巻く点が手芸・繊維との違い。
このトランスはボビンの端子ピンが折れていて、基板に挿せない。
糸巻き管(原糸ボビン)
bobbin
繊維の製造で、紡ぎ出した糸を巻き取るための管。ナイロンやポリエステルなどの合成繊維の紡糸工程では紙管などのボビンに糸条を巻き取り、後の高次加工では原糸ボビン同士の巻始めと巻終りの糸端を結んで連続処理する。高価な糸では細かな重量管理にも関わる。
紡糸した糸はボビンに巻き取り、そのまま次の加工工程へ回します。
フライタイイングのボビン(ボビンホルダー)
bobbin (bobbin holder)
フライ釣りの毛鉤(フライ)を自作するとき、スレッド(巻き糸)のスプールを保持する小さな道具。手に持ち、先端の細い管から糸を送り出して、一定の張力を保ったまま素材を軸に巻き付ける。管の縁が滑らかでないと糸が毛羽立つため、管の仕上げが品質の要になる。糸そのものではなく、糸を持つ工具を指す点が手芸のボビンとの違い。
ボビンの管の先が傷んでスレッドが毛羽立つので、新しいものに替えた。
糸も銅線も巻く、名前のわからない芯
ミシンの下糸を巻いた小さな芯と、トランスの中で銅線を巻いた樹脂の枠。手に取れば似ていることはすぐわかる。どちらも中心に孔があり、両端に鍔があって、巻く範囲が決まっている。糸と導線という中身は違うのに、同じ「ボビン」と呼ばれる。形が同じだから同じ名前になった、というのが自然な説明に思える。
ただ、形が先だったのかどうか、確かめようとすると足場が崩れる。
英語の bobbin は、1530年ごろから記録がある。糸や毛糸を巻く小さな棒や管を指す語で、フランス語の bobine から入ったとされる。電気の話はまだどこにも出てこない。ミシンのボビンも、ボビンレースの糸巻きも、この系統に入る。
では bobine の先はどうか。ラテン語の balbus(どもる)から、糸巻きが回るときの音になぞらえたという説がある。ほかに、跳ねる動きを写した擬音語とする説、ガリアの言葉に由来するとする説もある。語源辞典も、確かなことは言えないという書き方をしている。一番古い層で、名前は行き止まりになる。
フランス語の bobine は、いまは糸巻きだけの語ではない。辞書には糸巻き、リール、ドラムと並んで、コイルの意味も載っている。自動車の点火コイルは、フランス語では bobine d’allumage、略して bobine と呼ぶ。糸を巻く芯と、導線を巻いた部品が、今は一つの語の中に同居している。
ここで日本語の側を見ると、様子が違う。電子部品で「コイル」と言えば導線を巻いた部品全体を指し、導線を巻く絶縁の枠だけを「ボビン」と呼んで区別する。フランス語なら一語で済むところを、日本語は巻かれたものと巻く芯とで二つに割った。繊維工場でも、紡いだ原糸を巻き取る管をボビンと呼び、手芸のボビンとは別の現場の道具になっている。
フライ釣りの毛鉤を自作する人の机にも、ボビンがある。ただしこれは、糸を巻いた芯ではない。スレッド(巻き糸)のスプールを挟んで手に持ち、先端の細い管から糸を送り出す工具で、張力を一定に保ったまま、素材を針の軸に巻き付けていく。糸を巻かれる側ではなく、糸を持つ側にボビンが回った。孔と鍔の形では、この道具をうまく説明できない。
形が似ているから同じ名前、という最初の説明は、半分は当たっていると思う。ただし、先に形があって名前がそれに付いたのか、名前のほうが先にあって、巻くものが糸から導線へ広がったのか。英語に電気の意味が入った時期を確かめていないので、ここは言い切れない。
言い切れるのは手元の事実だけだ。ミシンのボビンの替えは機種専用で、型番を確かめて買う。トランスのボビンは、端子ピンが折れれば基板に挿せない。フライ用のボビンは、管の先が傷むとスレッドが毛羽立つので、新しいものに替える。同じ名前でも、互いの代わりにはならない。