バッファ
バッファ
6つの業界で、それぞれ別の意味で使われています。
緩衝記憶領域
buffer
機器どうしでデータをやり取りするとき、処理や転送の速度差を埋めるために、データを一時的に置いておく記憶領域。プリンターが受け取ったデータをいったんためて印刷したり、動画を先読みして途切れず再生したりするのに使う。メインメモリーの一部を割り当てることも多い。
ネットワークの受信バッファがあふれて、パケットが取りこぼされている。
緩衝液(バッファー)
buffer
酸やアルカリが加わっても pH が大きく動かないようにする溶液。酵素の活性は pH で変わるため、生化学の実験では試薬を溶かす液や反応液として、目的の pH に調整して使う。弱酸とその塩などの混合液で作るのが一般的。
タンパク質を pH 7.4 のバッファーに溶かして、4℃で保存した。
バッファー(制約理論の時間的余裕)
buffer
制約理論(TOC)の生産管理で、工程全体の能力を決めるボトルネック(ドラム)が止まらないよう、その直前に意図的に置く余裕。個数ではなく時間で管理し、「3日分のバッファー」は前工程からの供給が止まってもドラムが3日稼働できる仕掛在庫を指す。納期を守るために出荷の手前に置く出荷バッファーもある。
ドラムの前に2日分のバッファーを置いて、前工程の故障の影響を抑えている。
資本バッファー
capital buffer
バーゼルIIIにもとづき、銀行が最低所要の自己資本に上乗せして持つ資本。平時に積み、ストレス時に取り崩して損失を吸収する。資本保全、カウンター・シクリカル、G-SIBs、D-SIBsの4種があり、水準を下回ると配当などの社外流出が制限される。
自己資本比率は規制水準を満たしているが、資本バッファーの余力も確認したい。
緩衝器
buffer
主にヨーロッパの鉄道車両で、ねじ式連結器とあわせて車両端に付ける緩衝装置。車体から突き出た円盤状や棒状の部分で、連結した車両どうしが近づいたりぶつかったりしたときの衝撃を吸収する。
この客車は車端の両側にバッファーが付いている。
バッファ回路(バッファアンプ)
buffer amplifier
この設計は、高い入力インピーダンスと低い出力インピーダンスによって信号をバッファするため使用されます。
前段の信号を弱めずに後段へ渡すための回路。オペアンプのボルテージフォロワなどで作り、出力電圧は入力電圧と同じで、入力インピーダンスが高く出力インピーダンスが低い。ADC や低インピーダンスの負荷を駆動するときに、間に入れて前後の回路を切り離す役目をする。
オペアンプの出力をそのまま重い負荷につなぐと電圧が落ちるので、間にバッファを入れた。
電圧を変えない回路が、なぜバッファと呼ばれるのか
オペアンプで作るボルテージフォロワは、入力と同じ電圧をそのまま出力する。増幅も減衰もしない回路に、なぜ「バッファ」という名が付くのだろうか。
仕事が電圧を変えることではなく、前段と後段を切り離すことだからだ。テキサス・インスツルメンツの資料『バッファ(フォロワー)回路』は、この回路を「高い入力インピーダンスと低い出力インピーダンスによって信号をバッファするため使用されます」と説明している。入力側は前段からほとんど電流を引かず、出力側は重い負荷につないでも電圧が落ちにくい。電圧は変わらないまま、前段は後段の重さを感じなくなる。受け止めているのは、負荷の重さである。
同じ語を、ほかの五つの業界で読むと、受け止めるものがそれぞれ違う。
- ITでは、機器どうしの処理や転送の速度差だ。プリンターは受け取ったデータをいったんためてから印刷する。
- 鉄道では、車両が近づいたりぶつかったりしたときの衝撃だ。ヨーロッパの車両は、端に突き出た円盤状や棒状の緩衝器で受ける。
- 生命科学では、酸やアルカリが加わったときの pH の動きだ。動かないように調整した溶液に、酵素やタンパク質を溶かす。
- 銀行では、損失だ。最低所要の自己資本に上乗せして平時に積み、ストレス時に取り崩す。
- 製造では、前工程の供給停止だ。制約理論(TOC)では、工場の能力を決めるボトルネック工程の直前に「3日分」と時間で数えた仕掛在庫を置き、ドラムを止めない。
回路だけが毛色の違う使い方をしている。銀行の資本は取り崩せば減る。製造の3日分は、供給が止まれば使い尽くす。回路のバッファの説明には、減っていく量が出てこない。出力が入力に等しいまま、前後を切り離しているだけだ。
オペアンプの出力を重い負荷にそのままつなぐと、電圧が落ちる。間にバッファを一つ入れると、負荷側の電圧は入力と同じ値のまま保たれる。入力と同じ電圧を出すだけの回路が、その間に入っている。