ケージ
ケージ
6つの業界で、それぞれ別の意味で使われています。
ケージ(野球:打撃練習用の囲い/格闘技:金網の試合場)
cage
野球ではバッティングケージを指し、ネットで囲んだ打撃練習の場所。打者の前から投手役やピッチングマシンが投げ、打球がほかへ飛ばないようにする。格闘技では金網で囲んだ試合場のことで、UFCの八角形のオクタゴンがその代表。
雨の日は室内のケージで、マシン相手に打撃練習をした。
鉄筋ケージ(鉄筋かご)
reinforcement cage
鉄筋を円筒や角柱の立体に組み上げたもので、場所打ち杭や柱に使う。掘削した穴に鉄筋ケージを吊り込んでからコンクリートを流して杭にする。形状や精度が構造全体の品質を左右するため、施工の早い段階で重要な工程になる。
杭の掘削が終わったので、鉄筋ケージを建て込む。
ロールケージ
roll cage
車室内にパイプを組んで取り付ける骨組みで、横転やクラッシュのときに車室がつぶれるのを防ぎ、乗員を守る。ボディ剛性を高める効果もあり、サーキット走行や競技車両に多く、素材やパイプの太さ、取り付け方は競技のレギュレーションで定められる。
競技に出るので、車検に通る範囲でロールケージを組んだ。
椎体間ケージ
interbody cage
脊椎固定術で、傷んだ椎間板を取り除いた椎体どうしの間に差し込むインプラント(体内に埋め込む器具)。椎体の間の高さと安定性を保つスペーサーで、内部に骨移植材などを詰め、隣り合う椎骨の癒合(骨がつながること)を促す。
腰椎の変性に対して、椎体間ケージを用いた固定術を行った。
ケージ(データセンターの専有区画)
cage
コロケーション(データセンターの床を借りて自社のサーバーを置く形態)で、複数のラックをまとめて金網やフェンスで囲った専有区画。借りる単位として、ラック単位や個室(ルーム)と並ぶ選択肢で、ほかの顧客の機器から物理的に分けられる。
ラック数が増えたので、ケージ単位の契約に切り替えた。
保持器(軸受のケージ)/ケージ弁のケージ
cage
転がり軸受で、玉やころ(転動体)を等間隔に並べて保持する部品。転動体どうしがぶつかるのを防ぎ、回転を滑らかにする。英語ではcageやretainerと呼び、鋼板や樹脂で作られる。別の意味として、調節弁の円筒状の部品も指す。周壁の窓の開き具合で流量を調整し、弁体(プラグ)がその内側を動く。
高速回転で使うので、軸受のケージは樹脂製を選んだ。
背骨に入るケージは、馬のかごから始まった
ケージと聞いて、金網や鉄パイプを思い浮かべる人が多いだろう。囲うものだから、囲いには中と外がある。この言葉が各業界でどちらを守っているのかを並べてみると、きれいに分かれるのではないか。
野球のバッティングケージは、中の打者が打った球を外へ出さない。ロールケージは逆で、横転したときに外から来る衝撃から、中の乗員を守る。データセンターのケージは、金網で囲って自社のサーバーをほかの顧客の機器から物理的に分ける。格闘技の金網は、中の選手が外へ出ないようにする囲いだと言えそうだ。守る向きは、内向きと外向きの二通りに収まる。
建設の鉄筋ケージは少し勝手が違う。鉄筋を円筒状に組み、掘った穴に吊り込んでからコンクリートを流す。中身を守るというより、杭の骨格そのものになる。
製造業のケージは、囲うというより並べて隔てる。転がり軸受の保持器はケージとも呼ばれ、玉やころを等間隔に保って、転動体どうしがぶつかるのを防ぐ。調節弁のケージは円筒の壁に窓が開いていて、その内側を弁体が動き、窓の開き具合で流量が決まる。中のものを閉じ込めも守りもせず、位置と動きを決めている。ここまでは「囲い」の言葉として読める。
ところが、医療機器の椎体間ケージは、囲っているものが見当たらない。脊椎固定術で、取り除いた椎間板の跡、つまり椎体どうしの間に差し込む小さな器具だ。内部に骨移植材を詰め、隣り合う椎骨がつながるまで、すき間の高さと安定を保つ。何かを閉じ込めるのでも、外から守るのでもなく、骨が育つ足場としてのかごである。
なぜこれを「ケージ」と呼ぶのか。
手がかりは、この器具の始まりにあった。最初の金属製のかごを考案したのは、メイヨー・クリニックで整形外科を学んだ医師ジョージ・バグビーで、「バグビー・ボーン・バスケット」と呼ばれた。バスケット、つまり編みかごである。そして最初に埋め込まれた相手は人ではなく馬だった。ウォブラー症候群という、後ろ脚がふらつき、麻痺することもある脊椎の病気を治すためで、獣医のバリー・グラントと組んで手術したという。後継のKCC(切れ込みを入れた円筒)を受けた馬には、三冠馬シアトルスルーがいる。
その後バグビーは外科医のスティーブン・カスリッチと組み、人間用のBAKインプラントを開発して特許を取った。バスケットがケージと呼ばれるようになった経緯までは、確認できていない。ただ、鳥や獣を入れるかごではなく、骨の育つ場所を支える編み目の器具だったことは、名前からも想像がつく。
馬の背骨で試された金属のかごが、いまは人の腰椎に入っている。野球のケージに囲まれた打者も、金網の中の選手も、体の中で同じ名前の器具が働いているとは思っていないだろう。囲いの内側に人がいる業界と、人の内側に囲いが入る業界が、同じカタカナで並んでいる。