用語

キャスト

キャスト

6つの業界で、それぞれ別の意味で使われています。

芸能・タレント

配役・出演者

cast

作品に出演する俳優やタレントの顔ぶれ全体、またはその配役を指す。制作側はキャスティング(役に合う出演者を選んで交渉する作業)を経てキャストを決め、発表資料や番組表では主役から脇役までを「キャスト」欄にまとめて載せる。

主要キャストが決まったので、来週にも解禁の発表を出したい。

旅行・観光

テーマパークで働く従業員の呼称

cast member

東京ディズニーリゾートなどで、運営会社が働く人を「スタッフ」ではなく「キャスト」、来園者を「ゲスト」と呼ぶ慣行。パーク全体を舞台に見立て、アトラクションや清掃、販売の担当者も役を演じる出演者という位置づけによる。

新人キャストは、まずゲストへの声かけの練習から始まる。

アウトドア・釣り・キャンプ

投げること(釣り)

cast

キャスティングとは、ロッド(釣り竿)を振り、ルアーなどの仕掛けを投げる動作のことを指します。

出典:BE-PAL「ルアー釣りの基本中の基本『キャスティング』とは?コツも解説」(小学館)

釣りで、ロッドを振ってルアーや餌のついた仕掛けを狙った場所へ投げ入れる動作。「キャストする」と動詞にして使い、オーバーヘッドキャストやアンダーハンドキャストなど投げ方の名前にも付く。名詞の「キャスティング」は投げる技術全般や、投げて探る釣り方を指す。

風が強いので、足元からサイドキャストで低く投げた。

医療・医学

ギプス(固定用の硬化包帯)

cast

骨折などのとき、患部を動かないよう固める硬化包帯、またはそれで固定した状態。英語の cast にあたり、ギプスと同じものを指す。古くは石膏の包帯が中心だったが、現在は水で硬化するガラス繊維製の巻き材が広く使われ、その製品名にも「キャスト」が入るものが多い。

手首の骨折なので、腫れが引くまでシーネで固定し、その後キャストで固めます。

IT・システム開発

型キャスト(明示的な型変換)

cast / type casting

プログラムで、ある式の値やオブジェクトを別のデータ型として扱うよう、書き手が明示して変換すること。C系言語では (int)x のように型名を括弧で前置きして書き、実数の小数部を切り捨てて整数にするといった場面で使う。型のサイズや表現によっては値が変わったり情報が失われたりするため、意図を示して書く必要がある。

double から int への代入は桁落ちするので、意図が分かるよう明示的にキャストしておいて。

趣味・ホビー・玩具

レジンキャスト(樹脂による型取り複製)

resin cast

ガレージキットなどで、シリコーンゴムの型に常温で固まるレジン(樹脂)を流し込み、硬化させて原型を複製すること、またはその複製品。大がかりな設備なしに個人でも原型を複製できるため、個人製作のガレージキットが広まるもとになり、現在もレジンキャストキットが主流の一つとなっている。複製では、型に離型剤を吹き、気泡が入らないよう注意するのが要点になる。

このレジンキャストキットは気泡の跡があるので、パテで埋めてから塗装する。

投げる語が、配役の語になるまで

釣り人が「キャストする」と言えば、竿を振って仕掛けを投げることだ。芸能の現場で「キャストが決まった」と言えば、出演者の顔ぶれが決まったことになる。綴りはどちらも cast である。投げる動作と配役は、どこでつながっているのだろうか。

古いのは「投げる」のほう

語源辞典 Online Etymology Dictionary によると、動詞 cast は1200年ごろに英語に入った。古ノルド語の kasta(投げる)と同系の、スカンディナヴィア方面の語だという。釣りの「キャスト」は、この原義をそのまま残している。

芸能の意味は、ずっと後に出てくる。同じ辞典は、芝居の役を俳優に割り振る意味の記録を1711年とし、名詞の casting が演劇の意味で出てくるのは1814年としている。投げる意味から数えて、500年ほど遅い。

役を「投げ与える」ところから来たのだろうか。そう書きたくなるが、裏づけがない。同じ辞典には、1300年ごろから cast に「計算する、見積もる」「(進路を)定める」といった意味があったと載っている。「計画する、配置する」に近い意味が先にあり、そこから配役に伸びた可能性もある。どちらの道筋をたどったのかは、確かめられた資料には書かれていなかった。

日本語では三つが同じカタカナになる

カタカナの「キャスト」には、もう一つ加わる使い方がある。東京ディズニーリゾートでは、働く人を「スタッフ」ではなく「キャスト」、来園者を「ゲスト」と呼ぶ。運営側の説明では、パークを舞台に見立て、持ち場の担当者も役を演じる出演者として扱う考え方による。配役の意味の延長にある呼び方だ。

投げる(古い意味)、出演者(18世紀以降の意味)、出演者の見立てで働く人(テーマパークの慣行)。時期も理屈も違う三つが、同じ四文字で並んでいる。

釣りの「キャスティング」は投げる技術全般を指し、芸能の「キャスティング」は役に合う出演者を選んで交渉する作業を指す。英語では動詞 cast が両方に使われ、どちらの意味かは文脈で決まる。

それぞれの現場では、取り違えは起きにくい。釣具店で「キャストが決まった」と言えば、おそらく投げる場所の話だ。ただ、釣り番組のロケで「今日のキャストは3人」と書かれた進行表があれば、釣り人ではなく出演者の数を指している。その3人が現場で竿を振れば、同じ綴りの二つの意味が、一つの画面に並ぶことになる。