CD
シーディー
7つの業界で、それぞれ別の意味で使われています。
譲渡性預金/現金自動支払機
negotiable certificate of deposit / cash dispenser
英語表記「(negotiable) Certificate of Deposit」の略で「譲渡性預金」のこと。
銀行では2つの意味がある。ひとつは譲渡性預金で、第三者に譲り渡せる無記名の定期預金証書。発行条件を自由に決められ、市場金利を映す短期の資金調達手段になる。もうひとつは現金の引き出しだけができるキャッシュディスペンサーで、入金や振込のできるATMの前身にあたる。
大口の資金は、満期まで待たずに売却できるCDで運用した。
クリエイティブディレクター
creative director
広告制作の責任者。クライアントの課題を聞き、クリエイティブの方向性を決めたうえで、アートディレクター、コピーライター、CMプランナーなどの制作スタッフをまとめる。提案のプレゼンや、制作物の最終的な品質確認も担う。
CDが方向性を決めてから、ADとコピーライターが案を出し始めた。
継続的デリバリー
continuous delivery
CI/CD の後半を指す開発手法。CI(継続的インテグレーション)でビルドとテストを済ませたコードを、いつでも本番へ出せる状態に自動で仕上げる。本番への反映そのものは人間が判断する点が、全自動の継続的デプロイメント(これも CD と略される)との違い。
CIが通ったら、CDのパイプラインでステージング環境まで自動で進める。
臨界寸法
critical dimension
半導体の製造で、歩留まりや電気特性を左右するパターンの代表的な寸法(主に線幅)。露光や現像、エッチングのあとに、CD-SEM と呼ばれる専用の電子顕微鏡で測り、狙い値からのずれを工程にフィードバックする。
エッチング後のCDが規格の下限に寄ってきたので、条件を見直した。
円二色性(分光法)
circular dichroism
右回りと左回りの円偏光に対する吸光度の差を測る分光分析。光学活性(キラル)な分子で信号が出る。タンパク質では遠紫外域のスペクトルからαヘリックスやβシートといった二次構造の割合を見積もり、熱や変性剤による構造変化も追える。
精製したタンパク質の折りたたみをCDスペクトルで確認した。
CD抗原(分化抗原群)
cluster of differentiation
白血球など細胞の表面にある分子を、番号で分類する体系。CD4やCD8のように番号を付けて呼び、細胞の種類や由来、活性化の状態を見分ける目印に使う。フローサイトメトリーの抗体選びで日常的に出てくる。
CD4陽性のT細胞だけを、フローサイトメトリーで分取した。
クローン病
Crohn's disease
小腸や大腸を中心に、口から肛門までの消化管のどこにでも炎症や潰瘍を起こす慢性の病気で、潰瘍性大腸炎とともに炎症性腸疾患(IBD、腸に慢性の炎症が続く病気の総称)に含まれる。腹痛や下痢、体重減少が続き、国の指定難病になっている。診療や論文では UC(潰瘍性大腸炎)と並べて CD と略す。
この患者はCDで、小腸の狭窄のために抗TNF抗体の投与を検討している。
CDのCが、人の名前なのは医療だけ
クローン病を見つけたのは、一人ではない。1932年、ニューヨークのマウントサイナイ病院で、バリル・クローン、レオン・ギンズバーグ、ゴードン・オッペンハイマーの三人が、回腸に炎症を起こす患者14人の症例をまとめた。それなのに、病名に残ったのはクローンの名前だけである。
理由は、論文の著者の並べ方にあるといわれる。当時の慣例に従って著者名をアルファベット順に並べると、Crohn が先頭に来た。G も O も、C より後ろである。論文の題は「Regional ileitis(限局性の回腸炎)」で、「Crohn’s disease」という語は論文自体には使われていない。学会で発表したときの仮の名は「Terminal ileitis」だったが、terminal が「終末期」と受け取られかねないとして改められた。その後、先頭に載った姓で呼ぶ人が増え、呼び名が固まった。ABC順という編集上の都合が、そのまま病名になったわけだ。
診療の現場では、この病気を CD と略す。C は Crohn の頭文字である。
ほかの六つの業界のCは、どうだろうか。銀行の certificate、広告の creative、ITの continuous、半導体の critical、分析の circular、生命科学の cluster。名詞か形容詞で、人の名前はひとつもない。CD の C に人の姓が入っているのは、七つのうち医療だけだ。
生命科学の CD は、むしろ人や研究室の名前から離れるために作られた体系である。白血球の表面分子に、研究室ごとの名前で抗体が作られていた。1982年にパリで開かれた国際ワークショップで各地の抗体を突き合わせ、同じ分子を指すものに番号を振った。そのため CD4 という呼び名は、誰が最初に見つけたかを語らない。
同じ「CD」の二文字で、片方は偶然の著者順から人の名前が残り、片方は合議で名前を番号に置き換えた。
病院のカルテには、炎症性腸疾患の患者について「UC」と「CD」が並ぶことがある。UC は ulcerative colitis、潰瘍性大腸炎で、病変の姿をそのまま名にしている。隣の CD の C だけが、90年以上前の論文で先頭に印刷された、一人の医師の姓である。