用語

サーキット

サーキット

3つの業界で、それぞれ別の意味で使われています。

スポーツ・フィットネス

レース場/サーキットトレーニング

circuit

サーキット (circuit) とは、環状コースを持つレース用の施設である。

出典:Wikipedia日本語版『サーキット』

モータースポーツでは、自動車や二輪車が同じコースを何周も走って競うための専用の競技場を指す。フィットネスでは、複数の種目(ステーション)を決めた順に続けて行い、それを1〜数周繰り返すトレーニング法(サーキットトレーニング)を指す。種目間の休憩はごく短くする場合も、重い負荷で長めにとる場合もある。

週末は鈴鹿のサーキットへ観戦に行き、平日はジムで腕立て、スクワット、腹筋を順に回るサーキットトレーニングをしている。

法律・知的財産

巡回区

circuit

米国の連邦裁判所制度で、連邦控訴裁判所ごとに分けた管轄区域のこと。全米は12の地域別巡回区と、特許などの専門分野を扱う連邦巡回区の計13に分かれ、「第5巡回区」のように番号で呼ぶ。日本語では巡回区と訳し、各区の控訴裁判所を巡回控訴裁判所と呼ぶ。

第9巡回区の判断は連邦最高裁で覆ったが、他の巡回区との判断の分かれが論点になった。

音楽ビジネス・興行

サーキットイベント

circuit event

音楽興行で、近隣の複数のライブハウスや店舗、商店街などを会場にし、来場者が会場を巡りながら出演者のライブを見るイベント形式を指す。「サーキットフェス」とも呼ばれ、「〇〇ライブサーキット」のようにイベント名にも使われる。会場間が徒歩数分の距離に置かれる例が見られる。レース場の意味とは別の使い方。

今年のサーキットイベントは3会場で開かれ、観たいバンドの出番に合わせて会場間を移動した。

サーキットで回るのは、判事から客へ移った

3会場を使うライブイベントに、リストバンドを付けて出かける。梅田のライブハウスで1組見て、徒歩2分と案内されたハコへ移り、また次へ移る。ぴあの記事によれば、ある年の大阪のサーキットイベントは3会場に16組が出演し、時間割は少し重なるものの、見ようと思えば全員を見られるように組まれていた。動いているのは客で、バンドは自分の会場で待っている。

同じ語を使う米国の裁判所では、昔は逆だった。

1789年の司法法は、全米を三つの巡回区に分けた。巡回区の裁判所には専任の判事がおらず、連邦最高裁の判事六人がその役を兼ねた。判事は毎年4〜6か月、割り当てられた区を馬で回って法廷を開いた。Supreme Court Historical Society の解説は、舗装のない土の道は危険なことが多く、天候や設備の乏しさで判事が疲れ果て、病気やけがをすることもあったと書く。苦情や辞任も相次いだという。この慣行は1911年まで続いた。回っていたのは判事で、訴える側は地元で待っていた。

いま「第9巡回区」と呼ばれるのは、連邦控訴裁判所ごとの管轄区域である。全米で12の地域別巡回区と連邦巡回区の計13。名前だけが巡回の時代から残り、人が回ることはなくなった。

トレーニングのサーキットでは、回るのは自分の体で、器具は動かない。腕立て、スクワット、腹筋と、決められた場所を順に移っていく。レース場は「環状コースを持つレース用の施設」(Wikipedia日本語版『サーキット』)で、動くのは車、コースは動かない。

並べると、動く側と動かない側の組み合わせが、場所によって違う。判事は動き、法廷の客は待った。競技者は動き、器具とコースは待つ。ライブイベントでは客が動き、出演者が待つ。

ところで、客が回る形のイベントを、なぜサーキットと呼ぶのか。由来を書いた資料は確かめられていない。ただ、RAG MusicFestival の解説は、複数の会場を巡りながら楽しめることと、移動の途中で気になったライブに出会えることをこの形式の魅力に挙げている。レース場のように周回して同じ点に戻るわけではないから、「巡る」の一点で名前を借りたのかもしれない。これは推測である。

3会場のリストバンドを手首に付けたまま、2分歩いて次のハコへ入る。馬で何か月も回った判事とは、距離も目的も違う。それでも、会場から会場へ向かうあの足取りは、巡回という語の元の姿にいちばん近いところにあるのかもしれない。