クロージング
クロージング
3つの業界で、それぞれ別の意味で使われています。
成約の働きかけ
closing
商談の流れ(ヒアリング、提案、条件交渉など)の最後に置かれ、見込み客に契約や購入の意思決定を促す段階。条件の最終確認や、迷いの原因になっている不安の解消、申込みの案内までを含む。営業の成否が決まる場面として、研修や営業手法の解説でよく取り上げられる。
提案への反応は良かったので、次回の訪問でクロージングまで進めたい。
クロージング(M&Aの実行)
closing
クロージングとは、M&Aでの経営権の移転を完了させる最終的な手続をいう。
M&Aで、最終契約(株式譲渡契約など)の調印後に、契約どおり経営権を買い手へ移す手続き。株式譲渡なら、株式の引渡しと対価の支払い、役員の改選などを行う。実行の前に、契約で定めた前提条件(クロージング条件。株主総会決議や取引先の同意など)がすべて満たされているかを双方で確認する。法務・会計・税務の専門家が関与することが多い。
最終契約の調印は先月で、クロージングは許認可の取得後の月末に予定している。
決済・引渡し(媒介業務の完了)
closing
不動産を売却する媒介業務が完了することをいう。
不動産の売買で、売買契約のあとに残代金の支払い、物件の引渡し、所有権移転登記の申請を同日にまとめて行う最終手続き。仲介会社の側では、これをもって媒介業務が完了することも指す。通常は契約から1〜2か月後の平日に、買主が融資を受ける金融機関などで、司法書士による本人確認や抵当権抹消の手続きとあわせて行う。
来月15日の午前に銀行でクロージングを行い、その場で鍵を引き渡します。
契約の前で閉じるか、後で閉じるか
営業の人が「今月中にクロージングしたい」と言う。M&Aの担当者は「クロージングは来月末」と言う。同じ語なのに、前者はまだ契約書に署名していない話で、後者は署名を済ませたあとの話になる。
営業でのクロージングは、契約や購入に至る前の段階を指す。ヒアリングと提案のあとに置かれ、条件の最終確認や不安の解消をして、相手に意思決定を促す。Salesforce Japan の解説は、これを商談の流れの最後に置く段階として説明している。署名がまだ済んでいないから、働きかけが要る。
M&Aでは順序が逆になる。日本M&Aセンターの M&A 用語集は、クロージングを「M&Aでの経営権の移転を完了させる最終的な手続をいう。」と書いている(同ページの語釈より引用)。最終契約の調印は済んでいて、そのあとで株式の引渡しと対価の支払いを行う。実行の前に、株主総会決議や取引先の同意といった前提条件がそろったかを確認するので、調印とクロージングのあいだに数週間から数か月あいても、おかしくない。
不動産の売買も、契約の後ろにある。売買契約のあと、残代金の支払い、物件の引渡し、所有権移転登記の申請を同じ日にまとめて行う。三井住友トラスト不動産の不動産用語集には、「不動産を売却する媒介業務が完了することをいう。」とある(同社の用語集「クロージング」より引用)。ここで閉じるのは取引そのものと、仲介会社の仕事である。
閉じる対象が違う
契約を軸に三つを並べると、営業は手前、M&Aと不動産は後ろに来る。位置がずれるのは、閉じているものが違うからだ。営業は相手の迷いを、M&Aは経営権の移転を、不動産は媒介という業務を閉じている。
語の出どころは共通している。close は英語に13世紀ごろ入った動詞で、古フランス語を経て、ラテン語の claudere(閉じる、ふさぐ)にさかのぼる(Etymonline による)。「終える」の意味は1400年ごろに現れた。何を閉じるのかは、この語の由来からは決まらない。業界ごとに、閉じる対象が決まっていったことになる。
冒頭の二人でいえば、営業の「今月中」は契約を取る期限で、M&Aの「来月末」は契約を履行する期限である。不動産会社の「クロージング」なら、その日のうちに鍵が渡される。