カバー
カバー
4つの業界で、それぞれ別の意味で使われています。
カバー(他者の既発表曲の演奏)
cover
既に発表されている楽曲を別のアーティストが新たに演奏、発表する行為や、そうして発表された作品のことを言います
ほかの歌手やバンドがすでに出した曲を、別のアーティストが取り上げて歌い直したり演奏し直したりすること。そうして生まれた録音・演奏そのものもカバーと呼ぶ。原曲の作詞・作曲者の権利が関わるため、管理団体が管理している曲を録音・配信するときは、その団体を通じた利用手続きが必要になる。
ライブの最後に、昔のヒット曲のカバーを披露した。
カバー(本の外側に掛ける紙)
book cover / dust jacket
単行本や文庫の本体の外側に掛ける紙で、書名・著者名・装画を載せ、売り場で本を見せる役目を持つ。洋書ではカバーが表紙そのものを指す場合が多く、日本でいうカバーは英語ではダストジャケットにあたる。古書の取引では、カバーの有無や状態が本の評価に関わる。
初版のカバーが残っているかどうかで古書の値段が変わる。
カバー(反対売買によるリスクの消し込み)
cover / short covering
持っているポジションと逆方向の取引をして、価格変動のリスクを消すこと。FX会社は顧客の注文をそのまま抱えると為替変動リスクを負うため、銀行などとの間でカバー取引を行ってヘッジする。株式では、空売りした銘柄を買い戻して決済することをショートカバーと呼び、これが連鎖すると相場が急上昇する要因になる。
ショートカバーが一巡して、株価の上昇は落ち着いた。
カバー(野球:ベースカバー)
base cover
野球で、本来その塁を守る野手が打球の処理などで離れたとき、ほかの野手が代わりにその塁に入って送球を受けること。たとえば一塁手がゴロを捕りに前へ出たときは、投手が一塁に走って送球を受ける。味方が空けた場所を別の選手が埋める守備の動きを指す。
ファーストが前に出たので、ピッチャーがベースカバーに走った。
「カバー」は売れ行きを覆う録音だったかもしれない
音楽の「カバー」を、いまは他人の曲への敬意を込めた演奏と受け取る人が多いだろう。ところが英語圏で cover record という言い方が使われ始めた1950年代、この語にはもっと競争の色が濃かったらしい。
棚を覆った録音
語の由来ははっきりしない。英語圏の資料や掲示板には説が二つある。一つは、後から出た録音が店の棚で原盤を文字どおり「覆い隠す」から、という説。もう一つは、ほぼ同時期に別の歌手が同じ曲を出し、原盤の売り上げを「覆って」奪うから、という説だ。どちらも決め手になる一次資料は見つからなかったので、説として並べるにとどめる。
背景として確かなのは、当時のアメリカで、黒人歌手がリズム・アンド・ブルースの市場で出した曲を、白人歌手がポップスの市場向けに録音し直す例が多かったことだ。1954年夏、ザ・コーズの「Sh-Boom」は全米ポップチャートの5位に入った。しかしその年の年間上位に入り、2か月以上1位だったのは、白人グループ、クルー・カッツによる同じ曲の録音だった。
ファッツ・ドミノはこの慣行について、カバーを出すのはかまわないが、せめて1か月は間を空けてほしい、そうすれば自分たちの名前が曲と結びつく機会があるから、と語ったと伝えられている(20thcenturyhistorysongbook.com「White Cover Records」より)。
穴を埋める側のカバー
金融のカバーは、覆われるのではなく、覆うほうの話になる。FX会社は顧客から売りか買いの注文を受けると、そのままでは自社が為替変動のリスクを抱える。そこで銀行などと逆向きの取引をして、リスクを消す。これがカバー取引だ。OANDA証券の解説によれば、売りと買いの注文が同じタイミングで入ればリスクが相殺されるので、多くの会社は一定の数量になるまで自社で抱え、そのあとでまとめてカバーするという。株の空売りを買い戻すショートカバーも、開けてしまった穴を埋める動きにあたる。
野球のベースカバーも同じ形をしている。一塁手がゴロを捕りに前へ出ると一塁が空くので、投手が走って入る。空白ができたところへ別の選手が入るわけだ。
本のカバーでは、覆う対象の位置づけが日本と英語圏でずれる。日本では本体の外側に掛ける紙で、洋書では表紙そのものを指す場合が多い。同じ「覆う」でも、日本では本体の上に載せる別の層、英語圏では本体の一部になる。
金融も野球も、空いたところやむき出しのところに別のものを被せる意味で使っている。音楽のカバーが棚を覆うことだったのかどうかは、いまのところ確かめられない。