カット
カット
4つの業界で、それぞれ別の意味で使われています。
カット(映像の切れ目・転換)
cut
撮影では、カメラを回し始めてから止めるまでの一続きの映像、または編集でそれを別の映像へ切り替えること。トランジション効果を挟まず即座に次のショットへ替える編集が「カット編集」で、現場の「カット」の掛け声は撮影を止める合図にもなる。ひと続きで撮り切る手法は「ワンカット」と呼ぶ。
このシーンはカットを割らずにワンカットで撮ろう。
カット(髪を切る施術)
haircut
美容室・理容室で、髪を切って長さや形を整える施術、またはその仕上がり。毛先に段を付けるレイヤーカット、長さをそろえるワンレングスなど、切り方の技法ごとに名前が付く。カラーやパーマと並ぶ基本メニューのひとつ。
今日はカットとカラーでお願いします。
カット(小さな挿絵)
spot illustration
書籍・雑誌・新聞の本文の合間や余白に添える、小さなイラストや図案。大きな扉絵や主役のイラストに対して、誌面の区切りや飾りに使う小品を指す。依頼でも「カットイラスト」の名で発注される。
コラムの末尾に入れるカットを2点お願いします。
カット(卓球:逆回転の打法/野球:中継プレー)
cut / chop
競技によって別の意味になる。卓球ではラケットを上から下へ振り、ボールに逆回転(下回転)を与える打法で、これを軸に粘るのがカットマン。野球では外野からの返球を内野手が途中で受けて送球するカットプレーを指し、受ける内野手もカットマンと呼ぶ。
外野からの返球はショートがカットに入って本塁へ送った。
版木のカットが映像の切れ目になるまで
コラムの末尾に添える小さな挿絵を、出版の現場は今も「カット」と呼び、発注書には「カットイラスト」と書く。絵を描く人に「切る」と頼んでいるようなもので、考えてみると妙な呼び方である。
語源辞典 Online Etymology Dictionary によれば、英語の cut が「絵を彫った版木、またその絵」という名詞になったのは1640年代である。出版のカットは、この系統の言葉と考えられる。木版の挿絵は版木を彫って刷るので、彫る(切る)作業の名前が、刷り上がった絵の名前になった。同じ辞典には、woodcut(木版画)の初出が1660年代と載っている。
映像のカットは、ずっと新しい。同じ辞典は「ある画面から次の画面へすばやく移ること」の意味を「1933年まで」に確認できるとしていて、出版の用法とは300年ほどの開きがある。指すものも違う。出版のカットは切った跡である絵そのものだが、映像のカットは切れ目と、切れ目に挟まれた一続きの映像の両方を指す(ここは語源というより編集用語としての意味である)。
美容室の「カット」は、並べると位置が少し違う。cut に「切り方、仕立て」という意味が1570年代からあることまでは確認できた。しかしヘアカットの用法がいつ定着したかは、今回調べた範囲では日付を確かめられなかった。
スポーツでは、切る対象が一気に抽象的になる。卓球のカットは、ラケットを上から下へ振ってボールに逆回転をかける打法で、これを軸に粘る選手が「カットマン」と呼ばれる。野球にも「カットマン」がいる。外野からの返球を途中で受けて送球する内野手である。卓球のカットマンは相手の攻撃を受け止めて粘り、野球のカットマンは返球の途中に入って次へつなぐ。球の流れに割って入る点は共通しても、役割は同じではない。同じ名札を掛けた二人が、別の競技の中で別のことをしている。この二つを一つの語源から枝分かれしたものと見なす根拠は、今回の確認では得られていない。
四つの業界の意味のうち、出版の意味は、1640年代の版木の絵と同じ系統の言葉として、今日も「カットイラスト」の名で発注書に書かれている。