ダンパー
ダンパー
3つの業界で、それぞれ別の意味で使われています。
制振ダンパー/防火・風量調整ダンパー
damper
建築では2つの意味がある。構造では、地震や風の揺れのエネルギーを吸収して建物の揺れを抑える制振装置で、オイルダンパーなどがある。設備では、空調・換気ダクトの途中に付け、断面積を変えて風量を調節する板や、火災時に閉じてダクトを伝わる炎を防ぐ防火ダンパーを指す。
防火区画を貫通するダクトには防火ダンパーを入れてください。
ダンパー(ピアノの止音装置)
damper
ピアノやチェンバロで、弦の振動を止める装置。ピアノではフェルトで弦を押さえて音を止め、鍵盤やペダルから離れると働く。右のダンパーペダルを踏んでいる間は、指を離しても音が切れず余韻が続く。高音部は減衰が早いので付いていない。
ダンパーペダルを踏みっぱなしにすると、和音が濁ってしまう。
ダンパー(ショックアブソーバー)
damper
サスペンションのスプリングが縮んだあとの跳ね返りの振動を、内部のオイルの抵抗で減衰させる部品。ショックアブソーバーと同じ装置を指し、減衰力の強さが乗り心地と操縦安定性を左右する。単筒式と複筒式があり、減衰力を調整できるものもある。
足まわりは、ダンパーの減衰力を少し固めに調整した。
止める部品の名がついた、音を伸ばすペダル
ピアノの右端のペダルは、ダンパーペダルと呼ばれる。踏むと音が止まらなくなるペダルである。音を弱め、止める部品の名の「ダンパー」を持つのに、やっていることは正反対に見える。
なぜこんな名前なのか。ペダルが操作する相手が、ダンパーという部品だからだ。ダンパーは弦を押さえるフェルトで、鍵盤から手を離したときやペダルから足を離したときに、弦を押さえて音を止める。ペダルを踏んでいるあいだは、指を離しても音が切れない。音が伸びるのは、止める部品が仕事を休んでいるあいだである。名前は働きではなく、動かす対象のほうについている。
同じ名前の部品が、建築の換気ダクトにも入っている。防火ダンパーである。ふだんの羽根は開いていて、空気を通している。厨房の排気ダクトのものでは、火災の熱で温度ヒューズが溶け、ばねの力で羽根が閉じる。東京消防庁の試験報告は、厨房向けには120℃のヒューズが適当としている。止めるのは、いざというときの一度だけだ。
ピアノは、ふだんは止めていて、ペダルを踏んだときだけ止めない。防火ダンパーは、ふだんは通していて、必要なときだけ止める。止めている時間が正反対なのである。
では、車のダンパーはどちらか。どちらでもない。スプリングが縮んだあとの跳ね返りを、内部のオイルの抵抗で減衰させる。路面の凹凸でスプリングが動けば、そのたびに抵抗がかかる。止めるタイミングを選ぶのではなく、動きがあるかぎり働き続ける。建築の制振ダンパーも、揺れのエネルギーを吸収するという点では、この車の側に近い。
揺れや振動を弱めるという目的は同じでも、いつ働くかは違う。ピアノは奏者が決め、防火ダンパーは熱が決め、車は路面が決める。
ピアノの前に座る機会があったら、ペダルを踏んで和音を弾き、足を離してみてほしい。音がすっと切れる瞬間に、フェルトが弦を押さえている。