DI
ディーアイ
10つの業界で、それぞれ別の意味で使われています。
景気動向指数(DI)
Diffusion Index
内閣府が毎月公表する景気動向指数のうち、景気の方向を見る指標。採用する指標のうち改善している系列の割合で表し、景気の動きがどれだけ広い分野に及んでいるかがわかる。50%を境に拡張か後退かを判断する。変化の大きさを見るCI(コンポジット・インデックス)と対になる。
今月の景気動向指数はDIが50%を割り込み、景気の足踏みが指摘された。
業況判断DI(日銀短観)
Diffusion Index
日本銀行の企業短期経済観測調査(短観)で、企業に業況を「良い」「さほど良くない」「悪い」から選んでもらい、「良い」の割合から「悪い」の割合を引いた値。プラスなら景気が良いと受け止められ、大企業製造業の数値が特に注目される。景気動向指数のDIとは作り方が異なる。
日銀短観の業況判断DIが前回より3ポイント改善した。
不快指数
Discomfort Index
気温と湿度から、蒸し暑さによる不快さを数値にした指標。米国のトム(Thom)が1959年に発表した指数が元で、日本では気温と相対湿度から求める式が使われる。トムの調査では75で約半数、80でほぼ全員が不快と感じるとされ、天気予報の生活情報にも出る。
梅雨明け直後は不快指数が80を超える予報だ。
医薬品情報
Drug Information
医薬品の有効性・安全性・使い方に関する情報を集めて評価し、医療者へ届ける業務、またはその担当部署(DI室)。病院の薬剤部のほか、製薬企業でも医師や薬剤師からの問い合わせに答える部門がこう呼ばれる。
併用薬の注意点はDI室に問い合わせて確認した。
ダイレクトボックス
Direct Injection box
エレキギターやベース、キーボードの出力を、ミキサーやオーディオインターフェースに直接つなぐための機器。ハイインピーダンスの信号をローインピーダンスに変換し、ノイズや高域の減衰を抑える。ライブハウスやスタジオの定番機材。
ベースはDIでPA卓に送り、アンプはマイクで録ります。
直噴(筒内直接噴射)
Direct Injection
燃料を燃焼室(シリンダー内)に直接噴射するエンジンの方式。空気と燃料を燃焼室の中で混ぜるため、吸気ポートに噴射する方式より燃焼を細かく制御でき、燃費やCO2の低減につながる。ガソリンではGDI、DIGなどの名で各社が採用してきた。
このモデルは直噴(DI)ターボで、低回転から力強い。
依存性注入(依存性の注入)
Dependency Injection
あるオブジェクトが使う別のオブジェクトを、自分で生成せず外部から受け取る設計パターン。どの部品を使うかを設定ファイルなどで決められるため、部品どうしの結びつきが弱まり、差し替えやテストがしやすくなる。Spring などのフレームワークで広く使われる。
テスト時だけ、DIでデータベース接続をモックに差し替えた。
尿崩症
Diabetes Insipidus
抗利尿ホルモン(バソプレシン)が足りないか、腎臓がそれに反応しないために、薄い尿が大量に出て強い口渇が続く病気。視床下部・下垂体の障害による中枢性と、腎臓側の原因による腎性に分けられる。中枢性にはデスモプレシンで補う。糖尿病(diabetes mellitus)とは別の病気。名称変更が検討され、中枢性はバソプレシン分泌低下症とも呼ばれる。
多尿と口渇が続くため、DIを疑って水制限試験を行った。
脱イオン水(DI水)
Deionized water
イオンを取り除いた高純度の水。半導体や液晶パネルの製造でウェーハや基板のすすぎ・洗浄に使われ、金属イオンなどの混入は歩留まりの低下につながるため、製造ラインに専用の製造設備を置いて常時供給する。要求水準が高いものは超純水(UPW)と呼ばれる。
洗浄後のウェーハをDI水でリンスして乾燥工程へ送る。
ダクタイル鋳鉄管(DI管・DIP)
Ductile Iron (pipe)
黒鉛を球状にして粘り強くした鋳鉄でつくる管。水道の中・大口径の配水管などに広く使われ、継手を抜け出さない構造にした耐震管が更新工事で採用される。設計図や積算では管種を示す略号としてDIと書かれる。
老朽管の更新では、耐震継手のDI管に布設替えする計画だ。
Injectionが三つ並ぶDIと、味のないDI
ライブハウスの床に、灰色の小さな箱が置いてある。ベースのシールドがそこに刺さり、箱から出たケーブルがPA卓へ伸びる。エンジニアは「ベースはDIで」と言う。
この箱の DI は Direct Injection の略だ。自動車の「直噴」も、綴りは同じ Direct Injection である。ベースの箱とエンジンの燃焼室が、英語では同じ二語で呼ばれている。ただの偶然なのか。
一方がもう一方の名前を借りた、という話は見つからなかった。偶然に近いのだろう。ただ、やっていることを並べると似た形が見える。ベースの信号は、アンプを鳴らしてマイクで拾う経路を通らず、箱でインピーダンスを下げてそのままミキサーに入る。直噴エンジンは、吸気ポートで空気と混ぜてから送る方式をやめ、燃料をシリンダーの中に直接噴く。どちらも、途中の段をひとつ飛ばして、使う場所に直接入れる。
三つめの injection はITにある。Dependency Injection では、飛ばされるのは段ではなく、部品を用意する役目のほうだ。あるオブジェクトが必要とする別のオブジェクトを、自分で作らずに外から渡される。この名前は2004年1月、マーティン・ファウラーの記事で広まった。それまで同じ仕組みは Inversion of Control(制御の反転)と呼ばれていたが、ファウラーは、何の制御が反転しているのかが名前からわからないと問い、中身を言い当てた名前に改めた。
Injection を持つのは、十の業界のうちこの三つだけだ。残りの七つは別の語から始まっている。
景気動向指数と日銀短観は、どちらも Diffusion Index(拡散指数)だ。同じ名前で作り方が違うことは、それぞれの項目に書いた。気象の不快指数は Discomfort Index で、1959年にトムが発表した指数が元になっている。薬剤部のDI室は Drug Information、半導体工場のDI水は Deionized water、水道管のDI管は Ductile Iron である。
もうひとつ、尿崩症だけは名前が味を語っている。Diabetes は「サイフォンのように水が通り抜ける」という意味のギリシャ語に由来し、多尿を指した。1670年代にトマス・ウィリスが、多尿の患者の尿の味が人によって違うことに気づく。1794年にヨハン・ペーター・フランクが、糖を含まない多尿に insipidus(ラテン語で「味がない」)の名をつけた。糖尿病の mellitus は蜜のことで、甘い尿に対応する。尿崩症の尿は薄く、味がない。
十の業界に、正式名称は八通りある。八つのどれにも D と I が入っているのは、偶然としか言いようがない。
ライブハウスの床の箱に戻ると、「ベースはDIで」と言われて迷う人はそこにいない。迷うのは、DI の二文字だけを紙で見た人のほうだ。