用語

ドラフト

ドラフト

9つの業界で、それぞれ別の意味で使われています。

スポーツ・フィットネス

新人選手選択会議(プロ野球)

draft

プロ野球で、新人選手の入団交渉権をどの球団が得るかを決める会議。正式名称は新人選手選択会議で、日本野球機構が主催し、毎年10月に開かれる。球団間の戦力の偏りを防ぐのが目的で、1巡目は重複した指名を抽選で決め、2巡目以降は順番に指名する。得られるのは交渉権で、入団そのものではない。

今年のドラフトで、地元の大学生投手を1位指名する方針だ。

法律・知的財産

契約書の草案

draft

契約書などの草案・原案を指し、署名や押印をする本書の前段階の文書をいう。当事者がドラフトをやりとりして修正を重ねながら、最終的な契約内容に仕上げる。そのため、ドラフトの往復が契約交渉の実質になる。作成することも「ドラフトする」という。

先方から届いた業務委託契約のドラフトを、明日までにレビューしてください。

海運・貿易

喫水

draft / draught

船が水に浮いているとき、船底から水面までの垂直距離。積み荷が重いほど深くなり、入港できる港や水路の水深の限界を決める。船首・船尾・中央部で計り、船体に目盛りの喫水標を付ける。満載時の限度は満載喫水線で示される。

この港は水深が浅いので、喫水の深い大型船は沖待ちになる。

醸造・酒造

ドラフトビール(熱処理しない生ビール)

draft beer

日本では、加熱による殺菌をせず、ろ過で酵母を除いたビールを指す。ビールの表示の公正競争規約では、熱処理をしていないビールでなければ「生ビール」「ドラフトビール」と表示できない。そのため、樽詰めに限らず缶や瓶の商品でも、熱処理をしていなければドラフトビールと表示できる。英語圏では、樽から注ぐビールを指すことが多い。

この銘柄は熱処理をしていないので、缶でもドラフトビールと表示できる。

銀行・融資

為替手形

draft / bill of exchange

為替手形は、代金の受取人が振り出すため、逆為替とか取立手形と呼ばれることもあり、またこの手形は単に「Draft」ともいわれます。

出典:JETRO(日本貿易振興機構)貿易・投資Q&A

貿易決済で、輸出者が輸入者あてに代金の支払いを指図して振り出す為替手形を、単に「ドラフト」と呼ぶ。船積書類を添えた荷為替手形を銀行が買い取ったり取り立てたりし、D/P(支払いと引き換えに書類を渡す)やD/A(引受けと引き換えに書類を渡す)の条件で扱う。銀行が発行する支払い手段としての銀行為替(bank draft)も同じ語で呼ばれる。

輸出代金は、船積書類を添えたドラフトを取引銀行に持ち込んで回収する。

分析・計測

ドラフトチャンバー(局所排気装置)

fume hood / draft chamber

実験室で有機溶剤や有害ガス、粉じんを扱う作業をするときに、発生源の近くで吸い込んで外へ排気する箱型の装置。作業者のばく露と室内空気の汚染を防ぐ。大学や試験・分析の現場に広く置かれ、単に「ドラフト」とも呼ぶ。

有機溶剤を使う前処理は、必ずドラフト内で行ってください。

日用品・消費財

ドラフト(紡績の延伸)

draft / drafting

糸づくりの紡績で、繊維の束(スライバー)を細く引き伸ばして均一にする工程、またはその引き伸ばしの度合い。周速の異なるローラーの対(バック・ミドル・フロント)の間に繊維を通し、出口側を速く回して引き伸ばす。ローラーの速度比がドラフト率で、糸の太さのむらや品質を左右する。

この精紡機はドラフト率を上げすぎると、糸のむらが出やすい。

機械・生産

抜き勾配

draft angle

射出成形や鋳造で、成形品を型から取り出しやすくするために型の側面へ付ける傾斜。勾配がないと成形品が型に密着して抜けず、擦り傷や変形の原因になるため、設計段階で壁面ごとに設定する。英語の draft angle から、現場では「ドラフト」「ドラフト角」とも呼ぶ。

この側壁は抜き勾配が足りないので、ドラフトを2度付けて再設計してください。

趣味・ホビー・玩具

ドラフト(カードゲームの遊び方)

booster draft

マジック:ザ・ギャザリングなどのトレーディングカードゲームで、その場でデッキを組む遊び方。各自が開封したパックから1枚ずつ選び、残りを隣へ回していく。パックごとに回す向きを変え、集まったカードで40枚のデッキを作って対戦する。正式にはブースタードラフトで、単に「ドラフト」と呼ぶことが多い。

今夜のドラフトは8人集まったので、3パックずつ開けて回そう。

「引く」から出た5つのドラフト、1つだけ離れた

プロ野球の新人選手選択会議、契約書の草案、船の喫水、樽から注ぐビール、為替手形、実験室の排気装置。この6つがどれも「ドラフト」と呼ばれているが、共通点は思いつかない。別々の語がたまたま同じ表記になったのだろう、と考えたくなる。

ところが英語の語源辞典 Online Etymology Dictionary によれば、draft はもともと draught の綴りの変種(1500年ごろ)で、さかのぼると古英語の dragan「引く」に行き着く。同辞典は、この語の意味はどれも「引く」に通じると整理している。

何を引くかで分かれた意味

同辞典が挙げる年代を並べると、引かれるものの違いが見える。

  • 文章の下書き:14世紀。紙の上に「引かれた」線や文字から、書き下ろした草稿を指すようになった
  • 軍務のための人選:1703年。集団から特定の任務のために「引き抜く」ことを指し、とくに米国で兵役に使われた
  • 銀行の為替手形(bank draft):1745年。資金を引き出す指図書
  • 空気の流れ:1770年ごろ。空気を「引き込む」こと
  • 樽のビール:1830年代。樽から「引いて」注ぐ方法

実験室のドラフトチャンバーは、空気を引き込んで外へ流す装置なので、空気の流れの系統に入る。契約書の草案は文章の下書きの系統、為替手形は引き出す指図書の系統にあたる。プロ野球のドラフトは、集団から人を選び出す点で兵役の意味とつながっているように見えるが、年代の裏づけは確認しておらず、これは編集部の推測である。

喫水は、船が水の中へ「引き込む」深さと考えれば同じ系統に収まりそうだ。船舶用語の解説には、船が一定の深さの水を必要とすることから来た意味だとする説明がある。ただし、この意味の初出年は上記の辞典に載っておらず、確認できていない。

樽から離れた日本のドラフトビール

日本のビールだけは、この「引く」から外れている。

ビールの表示の公正競争規約では、熱処理をしていないビールでなければ「生ビール」「ドラフトビール」と表示できない。この基準は、樽から引くかどうかを問わない。缶や瓶に詰めた商品でも、熱処理をしていなければドラフトビールを名乗れる。英語圏で draft beer が樽から注ぐビールを指すのに対し、日本では「引く」という動作を指していた語が、加熱しないという製法の条件を指している。

日本の店には、缶入りのドラフトビールが普通に並んでいる。冒頭の6つのうち、引く動作から離れて製法の条件を表すようになったのは、このビールだけである。