略語

ECM

イーシーエム

5つの業界で、それぞれ別の意味で使われています。

防衛・安全保障

電子対抗手段

Electronic Countermeasures

敵のレーダーや誘導兵器の探知・追尾を妨害するための電子的な手段の総称。妨害電波を出して相手のレーダーを使えなくするジャミング(妨害)や、偽の目標を見せてだます欺まんなどがある。航空機や艦艇が自分の身を守るために搭載する装置にも、敵の探知を阻む攻撃的な使い方にも用いる。

対艦ミサイルの脅威に備え、護衛艦のECM装置の更新が進められている。

自動車・輸送機器

エンジン制御モジュール(エンジンコントロールモジュール)

Engine Control Module

車載センサーから回転数・吸気量・温度などの情報を受け取り、燃料噴射量や点火時期を調整するエンジン制御用のコンピューター。排出ガスの管理も担う。ECU(Engine Control Unit)やPCM(Powertrain Control Module)とほぼ同じ意味で使われることが多いが、メーカーや地域によって呼び分けがある。整備では故障診断で読み出す対象になる。

エンジン警告灯が点灯したので、ECMの故障コードを診断機で読み出した。

生命科学・バイオ

細胞外マトリックス

extracellular matrix

細胞の外側や細胞どうしの間にあってコラーゲン、フィブロネクチン、ラミニンなどのタンパク質や多糖からなる構造。組織の形を保つ足場になるほか、細胞の接着・増殖・分化や組織の再生にも関わる。細胞培養では、ECMを模した基質(足場)を使って細胞の挙動を調べる。

培養皿にECM成分をコーティングすると、細胞の接着が良くなる。

IT・システム開発

企業内コンテンツ管理

Enterprise Content Management

文書・画像・メールなど企業が持つ非構造化情報を、作成から保管・検索・廃棄まで一元的に管理する仕組みやその製品群。文書管理、ワークフロー(承認の流れ)、記録管理、取り込み・スキャンなどを含む総称として使う。システム導入では、規程や監査に備えた保管期間の管理が要件になる。

契約書の保管をECMに集約し、承認フローも同じ画面で回すことにした。

証券・投資

株式資本市場(株式引受部門)

Equity Capital Markets

企業が株式を発行して資金を調達する市場での業務、またはそれを担う証券会社・投資銀行の部門。IPO(新規上場)、公募増資、転換社債の発行、ABB(アクセラレーテッド・ブックビルディング、短期間で投資家の需要を集めて売り出す手法)などを扱う。発行条件の設計、投資家向け説明、開示書類づくりを支援する。

ECM部門がIPOの主幹事として、投資家への需要調査を進めている。

ECMの頭文字Eは5つの別の語の頭文字

ECMの先頭のEは、防衛では Electronic、自動車では Engine、生命科学では Extracellular、ITでは Enterprise、金融では Equity。同じ3文字が、5つの別の単語から一文字ずつ取られている。真ん中のCも Countermeasures、Control、Content、Capital と分かれる。生命科学の extracellular matrix だけは、Cが語の途中の文字にあたる。

隣に並ぶ略語は業界ごとに違う

防衛では、電子戦(EW)がECM(電子対抗手段)、ECCM(Electronic Counter-Countermeasures、電子対抗手段への対抗手段)、ESM(Electronic Support Measures、電子支援手段)の3つに分けて説明される。ECCMは、相手のECMがあっても電磁波を使い続けるための技術で、妨害を押し切る、周波数を切り替えるといった工夫がここに入る。ECMの名前に Counter を重ねて、その対策に名前をつけた形である。

金融のECM(Equity Capital Markets)には、DCM(Debt Capital Markets)という相方がいる。頭の一文字が Equity から Debt に替わるだけの違いで、投資銀行では株式を発行する資金調達を扱う側がECM、債券や融資を扱う側がDCMと分かれて語られる。防衛の兄弟は末尾に文字を足して増えるが、金融の兄弟は先頭の一文字を入れ替える。

自動車のエンジン制御モジュールには、この種の兄弟が見当たらない。並ぶのは言い換えである。ECU(Engine Control Unit)は末尾の語が Module から Unit に替わっただけで、PCM(Powertrain Control Module)は先頭の語が Engine から Powertrain に替わっている。メーカーや地域によって、どれで呼ぶかが分かれる。

名前がついた年が分かる語

ITのECM(Enterprise Content Management)は、情報管理の団体AIIMが2000年に名づけたとされる。AIIMは2005年にこれを content and documents を扱う「technologies」と定義し、2008年初めに「strategies, methods and tools」へ改めた。技術から戦略、手法、ツールへと、定義の言い回しが変わった年まで追える。

防衛や金融のECMについては、いつ誰が言い出したのかを今回は確かめられていない。確かめられたのは、隣に置かれる略語がECCM、DCM、ECU、PCMと業界ごとに違うことまでである。冒頭の5つのEのうち、名づけられた年まで分かったのは Enterprise だけだった。