ER
イーアール
6つの業界で、それぞれ別の意味で使われています。
救急外来・救急救命室
Emergency Room
病院で急病やけがの患者を、昼夜を問わず受け入れる診療の場。日本では救急外来とも呼ばれる。北米型ERは、救急医があらゆる診療科の患者を最初に診断・初期治療し、必要なら各専門科に引き継ぐ方式をいう。重症度別に病院を分ける従来の日本の救急体制と対比して使われる。
胸痛で夜間にERを受診し、循環器内科にコンサルトされた。
小胞体
endoplasmic reticulum
細胞内にある、膜でできた袋や管のネットワーク。リボソームが付着した粗面小胞体はタンパク質の合成の場となり、付着しない滑面小胞体は脂質の合成などを担う。筋細胞では特殊化した筋小胞体がカルシウムイオンの出し入れで収縮を調節する。
ER ストレスでタンパク質の折りたたみ異常が蓄積した。
ER図(実体関連図)
Entity-Relationship (diagram)
データベース設計で、管理する対象(エンティティ)とその間の関連(リレーションシップ)を図にしたもの。1970年代にピーター・チェンが提唱した。要件定義や設計の段階で、テーブル構造の全体像を開発メンバーと共有し、設計の誤りを防ぐために描く。
テーブル設計の前に、ER図を描いて顧客と注文の関係を確認した。
自責点(野球)
Earned Run
野球で、投手の責任とされる失点。失策(エラー)などが絡んだ失点は含めない。投手の成績指標である防御率は、自責点に9をかけて投球回で割って求める。
先発は7回を投げて自責点(ER)2に抑えた。
従業員関係・労使関係対応
Employee Relations
会社と従業員の関係を良好に保つ人事の機能。苦情や対立の解決、ハラスメントや規則違反の調査、就業規則と労働法規の順守などを扱う。外資系企業の人事では、採用や報酬とは別の担当として置かれることがある。
ハラスメントの申告はERチームが調査を担当する。
徐放性製剤
Extended Release
医薬品名や剤形の末尾に付き、有効成分の放出速度や時間を調節して効き目を長く保つ製剤を示す記号。服用回数を減らし、血中濃度の急な上下による副作用を抑えるのが狙い。XR・SR・CRなども似た意味で使われるが、定義は統一されていない。割る、砕く、かみ砕くと成分が一度に放出されて危険なため、投与や服薬指導では注意が要る。
ER錠は粉砕すると血中濃度が急上昇するため、経管投与には使えない。
夜のERで、ER錠を砕いてはいけない
夜間のERに、鼻から栄養チューブを入れた患者が運ばれてきたとしよう。持参した薬の名前の末尾には、やはり ER とある。同じ二文字が、診療の場と錠剤の両方を指している。読み違えたら、何が起きるのか。
実際に起きた取り違えは、ER ではなく CR の錠剤で報告されている。2023年3月の PMDA 医療安全情報 No.65 は、処方医が経鼻栄養チューブの患者にニフェジピンCR錠を出し、看護師が徐放性製剤だと気づかないまま粉砕してチューブから投与した事例を載せた。もう一つの事例では、処方医が別の徐放性の錠剤を「症状に応じて割って調節する」よう指示していた。徐放性の錠剤を砕いたり割ったりすると、ゆっくり出るはずの成分が一度に出て、血中濃度が急に上がる。末尾の記号は ER、XR、SR、CR とあり、どれが何を指すかの定義は統一されていない。ER だけを警戒していれば足りるわけではない。
ER の六つの意味のうち、読み違いが錠剤を砕くという手の動作に直結するのは、薬だけだ。ほかの意味では、紙の上の行き違いで済む。
済むのだろうか。人事の ER、従業員関係は、ハラスメントの申告を調べ、誰に責任があるかを切り分ける仕事を含む。野球の ER、自責点も、責任の切り分けである。公式記録員は、失策がなかったものとしてその回を組み立て直し、迷えば投手に有利に判断する。失策が絡んだ失点は、投手の責任から外れる。責任を誰に置くかを決める手続きが、まったく別の世界で同じ二文字を名乗っている。
残る二つ、小胞体と ER図は、人にも錠剤にも触れない。顕微鏡の下の膜の網と、設計者が描く箱と線である。
最初の夜、診療の場の ER で渡された薬のシートを見て、末尾が ER か CR か XR かを確かめる。確かめたあとに、チューブから入れてよい錠剤かどうかを、薬剤師に聞く。二文字を読み違えても罰はないが、砕いた錠剤は元に戻らない。