ESD
イーエスディー
4つの業界で、それぞれ別の意味で使われています。
持続可能な開発のための教育
Education for Sustainable Development
気候変動、生物多様性の喪失、資源の枯渇、貧困の拡大といった、人類の開発活動に起因する問題を自らの問題として捉え、身近なところから取り組むことで、持続可能な社会の担い手を育てる学習・教育活動。学校では、探究的な学習や問題解決的な学習の中に位置づけて取り組む。
この学校はユネスコスクールとして、地域の川の調査を通じたESDに取り組んでいる。
静電気放電
Electrostatic Discharge
帯電した人体や機器が部品に触れたときに起こる放電で、数千Vに達する高電圧パルスが半導体などの精密部品を壊したり誤動作させたりする。製造現場では、リストストラップや導電マット、イオナイザーで静電気を逃がす管理を行う。半導体の耐性は、人体帯電モデル(HBM)や素子帯電モデル(CDM)などの試験で評価する。
組立ラインでは作業者のESD対策として、リストストラップの導通チェックを毎朝行う。
内視鏡的粘膜下層剥離術
Endoscopic Submucosal Dissection
内視鏡の先端から出す電気メスで病変の周囲を切開し、粘膜の下の層をはがして病変を一括で切除する治療。早期の胃がん、食道がん、大腸がんなどが対象で、開腹せずに臓器を残せる。国立がん研究センター中央・東病院で開発され、保険収載は胃が2006年、食道が2008年、大腸が2011年(同センターの説明による)。
早期胃がんと診断され、ESDで病変を切除する方針になった。
緊急遮断システム
Emergency Shutdown
石油・ガスの処理プラントや油井などで、漏えいや火災といった異常を検知したときに、設備を安全な状態へ自動で落とす安全系の制御システム。通常の運転制御とは独立し、センサーの信号を論理演算部で判断して遮断弁を閉じ、系内の圧力を抜く。
ガス漏れ警報が作動してESDが働き、入口の遮断弁が閉じてプラントが停止した。
ESDの二つは、日本発で同じ時期に動いた
ESDと書かれていても、何の略かは前後を読むまで決まらない。教育の Education for Sustainable Development、電子工業の Electrostatic Discharge、医療の Endoscopic Submucosal Dissection、エネルギーの Emergency Shutdown の四つがあり、そのうち教育と医療の二つは、日本が深くかかわっている。しかも、動いた年が近い。
国連の「10年」を提案した日本
2002年のヨハネスブルグ・サミット(持続可能な開発に関する世界首脳会議)で、日本は「国連持続可能な開発のための教育の10年」を提案した。同じ2002年12月の第57回国連総会で、日本が提出した決議が採択され、2005年からの10年間がその期間とされた。ユネスコが主導機関に指名されている(内閣官房・環境省の資料による)。日本の学校でユネスコスクールとESDの取り組みが広がった背景には、この提案がある。
内視鏡の先で生まれた治療
医療のESD、内視鏡的粘膜下層剥離術は、国立がん研究センター中央病院・東病院で開発された。同センターの説明では、保険収載は胃が2006年、食道が2008年、大腸が2011年とされている。
年を並べると、国連の「10年」が始まった2005年の翌年、2006年に胃のESDが保険診療の対象になっている。教育のESDが国際的な枠組みとして動き出した時期と、医療のESDが日本で保険診療として広がり始めた時期は、ほぼ重なる。どちらも日本で育った枠組みと技術に、同じ三文字が付いたことになる。
この重なりに、命名上の関係はあったのだろうか。確認できた範囲では、そういう話は見つかっていない。教育の側は Education for Sustainable Development の頭文字、医療の側は英語の手技名の頭文字で、それぞれ別に取られた略語である。
電子工業とエネルギーの二つは、由来や日本との関係を確認していない。前者は帯電した人体や機器が部品に触れて起こす放電、後者は漏えいや火災を検知して設備を安全な状態に落とす制御システムを指す。
組立ラインで毎朝リストストラップの導通を確かめる作業者と、内視鏡で粘膜の下をはがす医師と、ユネスコスクールで地域の川を調べる生徒は、同じ「ESD」という三文字を、まったく別の場所で使っている。