ETA
イーティーエー
4つの業界で、それぞれ別の意味で使われています。
入港予定日
Estimated Time of Arrival
船や貨物が仕向港に着く予定の日。出港予定の ETD と組で船積スケジュールに載り、実際の入港は ATA(実績)で区別する。あくまで目安で、船会社を拘束しない。また着くのは港までで、荷受人の手元に届く日とは限らない。
このコンテナ船の ETA は来週火曜なので、通関の手配をそれに合わせて進めます。
到着予定時刻
Estimated Time of Arrival
運航中の便が目的地に着く見込みの時刻。定期便の運航者ではゲート到着、不定期運航では滑走路への接地の時刻で示される。航空管制は滑走路への ETA の順に到着機を並べて遅れを減らし、空港はゲート割り当てにも使う。現在の速度から出す見積もりは、風向きの変化で実際とずれる。
向かい風で ETA が 15 分延びたので、ゲートの割り当てを見直してください。
電子渡航認証
Electronic Travel Authorisation
ビザが不要な国の旅行者が、渡航前にオンラインで取る入国前の許可。英国では ETA で英国などに最長6か月滞在できる。ビザではなく、取得しても入国が保証されるわけではない。語源は別で、到着予定時刻の ETA とは無関係。
英国へ行く前に、ETA の申請が済んでいるか確認してください。
イベントツリー解析
Event Tree Analysis
工学的系統や施設等において発生した異常な事象が、その時の系統、施設等の構成要素の状況によってどのように波及する可能性があるかを体系的に表示した樹枝線図。
原子力発電所などの確率論的安全評価で使う手法。最初に起きる異常事象(起因事象)から出発し、安全系統が働くか働かないかで枝分かれさせて、起こりうる結果の道筋を並べる。各分岐の確率を数値にできれば、結果ごとの確率を見積もれ、炉心損傷頻度などの算出につながる。故障の原因をさかのぼるフォールトツリー解析(FTA)と組み合わせて使われる。
全交流電源喪失を起因事象として、ETA で非常用冷却系の成功・失敗ごとの事故シーケンスを整理した。
日と分と許可と枝分かれ、四つのETA
同じ「到着予定」なのに、船のETAは日付で書かれ、飛行機のETAは時刻で書かれる。船は日の単位で足りて、飛行機は分の単位でないと困る。その差はどこから来るのだろうか。
海運の解説サイト Marine Insight は、船のETAを、ほとんどの場合は時刻なしの日付だけで示されるものとして説明している。ETD(出港予定)とETAはどちらも目安の日付で、船会社や通関業者、フォワーダー(貨物の手配を請け負う業者)を拘束しないとも書いている。ずれる理由は、港の混雑や労働争議、荒天、航行中の機関故障などいくらでもある。分まで約束できる条件が、そもそもそろっていない。
それでも船のETAは捨てられない。同じ記事によれば、ETDからETAまでの期間は在庫の予測に使われる。荷受人が見ているのは、倉庫の棚が空く日である。一日単位の精度でも、通関の手配と受け入れの段取りは組める。
飛行機は事情が違う。ETAは、残りの距離を、それまでの速度で割って出す。風向きが変われば外れる見積もりだが、使い道が分刻みなのだ。Wikipedia の「Estimated time of arrival」の項によれば、航空管制は滑走路に着く順、つまりETAの早い順に到着機を並べて遅れを減らし、空港はゲートの割り当てにもETAを使う。数分のずれが、後ろに並ぶ機体の順番とゲートの空きを動かす。冒頭の問いの答えは、ETAの先で待っているものの違いにある。船のETAを受け取るのは倉庫と通関の段取りで、飛行機のETAを受け取るのは、滑走路とゲートの順番である。
ところが英国では、同じ三文字が「いつ着くか」を指さない。
英国政府の案内では、ETAは Electronic Travel Authorisation、電子渡航認証である。ビザが要らない国の旅行者がオンラインで取り、英国とジャージー、ガーンジー、マン島へ最長6か月滞在できる。ここには到着の時刻が出てこない。あるのは、到着してよいかどうかという許可である。語の成り立ちも到着予定時刻のETAとは別で、同じ頭文字が選ばれた経緯は確かめられていない。
もう一つ、時間とも旅行とも関係のないETAがある。原子力発電所などの安全評価で使うイベントツリー解析、Event Tree Analysis である。出発点は、全交流電源喪失のような最初の異常、起因事象。そこから、非常用冷却系が働くか、働かないかで枝を分け、成功と失敗の組み合わせごとに事故への道筋を並べていく。原子力百科事典 ATOMICA(JAEA)は、これを「工学的系統や施設等において発生した異常な事象が、その時の系統、施設等の構成要素の状況によってどのように波及する可能性があるかを体系的に表示した樹枝線図」と定義している。各分岐の確率を数値にできれば、結果ごとの確率が見積もれて、炉心損傷頻度の算出につながる。
船と飛行機のETAは、まだ来ていない未来に一つの値を置き、外れたら置き直す。イベントツリーは、未来を一つに絞らない。起きうる道筋を枝の数だけ並べ、それぞれに確率をつける。
ロンドンへ飛ぶ旅行者を考える。搭乗口の画面には、到着機のETAが並ぶ。向かい風でそれが15分延びれば、ゲートの割り当てが見直される。一方、その旅行者の手元にある許可のETAは、延びも縮みもしない。船は日で、飛行機は分で、許可は最長6か月で動き、原子力の報告書のETAは時刻を持たずに枝を広げる。画面や書類の「ETA」が日付か、時刻か、許可か、樹形図かは、その横に並ぶ語で読み分けるしかない。