ハザード
ハザード
6つの業界で、それぞれ別の意味で使われています。
災害の原因となる自然現象
hazard
防災で、洪水・土砂災害・地震・津波・火山噴火など、被害を引き起こす自然現象そのものを指す。被害の予想範囲や避難場所を地図に示した「ハザードマップ」の名もここから来ており、人や建物がさらされる度合い(暴露)や弱さ(脆弱性)とは分けて使われる。
自宅の場所は洪水ハザードマップで浸水想定区域に入っているので、避難経路を確認しておこう。
危険事情
hazard
保険の引受で、事故の起こりやすさや損害の大きさを左右する条件。火災保険の建物の構造や周囲の可燃物のような物的ハザード、保険に入ったことで注意が緩むような心理的ハザード(モラールハザード)、故意や不正を含む道徳的ハザード(モラルハザード)に分けて評価する。事故の直接の原因である「ペリル」とは区別する。
古い木造で配線が傷んでいるので、物的ハザードが高いとして保険料を割り増しする。
有害性・危険有害性
hazard
化学物質が本来持つ、毒性や爆発・発火性などの性質。急性毒性、慢性毒性、生殖毒性、感作性などがある。リスクは、このハザードの大きさと人や環境がさらされる量(ばく露)の両方で決まり、ハザードが大きくてもばく露がなければリスクは小さいと考える。
この溶剤はハザードが大きいが、密閉系で使うのでばく露は抑えられ、リスクは低いと評価した。
危害要因
hazard
HACCP(ハサップ、危害要因分析重要管理点)で、食品の安全を損なう原因となるもの。食中毒菌やウイルスの生物的危害、洗剤・消毒剤などの化学的危害、金属片・ガラス・石などの物理的危害に分けて洗い出し、特に重要な工程を管理する。
仕込み工程の危害要因として、金属片の混入を物理的ハザードに挙げた。
ゴルフ:コース上の障害区域(旧規則)
hazard
ゴルフで、バンカーやウォーターハザード(池・川など)といった、プレーを難しくするコース上の区域をいう。2019年の規則改正でウォーターハザードは「ペナルティエリア」に改称され、ハザードという区分自体がなくなった。コースの案内や口語では今もバンカーや池を指して使われる。
このホールは右に池のハザードがあるので、左サイドを狙った。
ハザードランプ(非常点滅表示灯)
hazard lamp
ハザードランプの略。左右の方向指示器を同時に点滅させ、故障や緊急停車など周囲に危険を知らせる装置で、保安基準上の正式名は非常点滅表示灯。「ハザードを焚く」のように、点灯させる操作そのものも指す。感謝を伝える「サンキューハザード」は慣習で、法令に定めはない。
路肩に止まる前にハザードを点けて、後続車に知らせた。
サイコロの名が、確率を引いた残りを指すまで
ハザードは、もとは賭け事の名前だった。Online Etymology Dictionary によると、古フランス語の hasard は12世紀にさかのぼるサイコロ遊びの名で、英語には1300年ごろ、やはりサイコロ遊びの名として入った。「損失や危害の見込み、危険」という意味が現れるのは1540年代とされる。さらにさかのぼると、スペイン語の azar を経てアラビア語の az-zahr(サイコロ)に行き着くという説がある。ただし同じ辞典は、古典アラビア語の辞書に zahr がないため疑わしいとも書いており、語源は確定していない。
サイコロの名なら、中心にあるのは偶然だろう。出る目が悪ければ損をするという見込みが「危険」に転じたのは、筋が通っている。ところが現代の専門用語では、その偶然のほうが語の外に出されている。
偶然を別の語に任せた業界
防災では、洪水や地震などの自然現象そのものをハザードと呼ぶ。人や建物がさらされる度合い(暴露)や弱さ(脆弱性)は、別に数える。化学物質では、毒性や爆発性といった物質が持つ性質がハザードで、人や環境がさらされる量(ばく露)と合わせて初めてリスクになる。ハザードの大きい溶剤でも、密閉系で使ってばく露を抑えれば、リスクは低いと評価される。食品の HACCP では、食中毒菌や金属片のような混入物を危害要因(ハザード)と呼び、生物的・化学的・物理的に分けて洗い出す。発生の確率は別の話で、まず何が危害になりうるかを並べるところから始まる。
保険も同じ向きにある。事故の直接の原因は「ペリル」と呼んで別にし、ハザードは、事故の起こりやすさや損害の大きさを左右する条件を指す。
いつ起きるか、誰が浴びるかという要素は、リスクや暴露や脆弱性といった別の語が受け持つ。ハザードに割り当てられたのは、そのものが持つ性質のほうである。賭けの名前が、確率を引いた残りを指す語に落ち着いたことになる。
この流れに乗らなかった使い方
ゴルフのハザードは、バンカーや池のようにプレーを難しくするコース上の区域を指していた。2019年の規則改正でウォーターハザードはペナルティエリアに改称され、ハザードという区分自体がなくなっている。それでもコースの案内や会話では、今もバンカーや池をハザードと言う人がいる。
車の非常点滅表示灯は、保安基準上の名前に「ハザード」を含まない。それでも運転席では、路肩に止まる前に「ハザードを焚く」と言う。