ホールド
ホールド
6つの業界で、それぞれ別の意味で使われています。
ホールド(野球:中継ぎの記録/クライミング:手がかりの突起)
hold
(新)ホールド=救援投手で勝利、敗北、セーブ、引き分けの記録を得なかった投手を対象とし、条件(1)か(2)を満たした投手にホールド1を与える。
野球では、勝ち・負け・セーブなどの記録がつかなかった救援投手の働きを数える記録で、リードや同点の場面で登板し、アウトを1つ以上取って状況を保ったまま降板すると付く。NPBは2005年に現行の定義を定め、ホールドと救援勝利の合計(ホールドポイント)で最優秀中継ぎ投手を決めている。クライミングでは、人工の壁に取り付けられた手がかりの突起をいう。足を置く小さな突起は「スタンス」と呼び分けることがある。
今季はホールドが30を超え、ホールドポイントでも首位に立っている。
ホールド(保有継続)
hold
証券会社のアナリストが個別株につける投資判断の一区分で、買いと売りの中間にあたる。市場平均や同業他社並みの値動きが見込まれるため、持っている人は持ち続け、新たに買い増す・売る積極的な理由はない、という評価。会社によっては「中立」などの表記に置き換えて使う。
アナリストが投資判断を「買い」からホールドに引き下げ、株価が下落した。
ホールド(船倉・カーゴホールド)
cargo hold
貨物船の甲板下にある、貨物を積み込む区画。ばら積み船では隔壁で仕切られた複数の船倉に穀物・鉱石・石炭などを積み、上部の開口(ハッチ)をハッチカバーで閉じて水や湿気から貨物を守る。No.1 hold、No.2 hold のように番号で呼び分ける。貨物を替えるたびに行う船倉の清掃は「ホールドクリーニング」と呼ばれる。
No.3 ホールドのハッチカバーを開けて荷役を始める。
ホールド(与信枠の一時確保・仮売上)
authorization hold
カード決済で、実際の請求を確定する前に、利用限度額や口座残高の一部を一時的に確保しておく処理。ホテルのチェックインやレンタカー、ECの注文確定前などで使い、日本では「仮売上」「オーソリ」とも呼ぶ。金額は引き落とされず、売上を確定する(キャプチャ)か期限が切れると枠が解放される。保持期間は決済事業者や取引の種類で異なり、数日から長いと30日ほどになる。
宿泊費の保証としてチェックイン時にカードへ1泊分のホールドをかけた。
ホールド(通話の保留)
hold
通話を切らずに回線をつないだまま、相手を一時的に待たせておく電話機・交換機の機能。確認や取り次ぎのあいだに使い、相手には保留音が流れ、こちらの声は聞こえなくなる。ビジネスフォンには、他の電話機からも応答できる共通保留、保留した電話機でしか応答できない個別保留、パーク保留という場所に一時的に置くパーク保留などの種類がある。
外線をいったんホールドにして、担当者の内線を鳴らした。
ホールド(客室の仮押さえ)
hold (room hold)
ホテルの予約・フロント業務で、客室を一時的に他の予約に割り当てられない状態にしておくこと。団体客などで隣り合った客室をまとめて確保したいとき、複数のスタッフが同じ部屋を取り合わないよう、数分から最長24時間(設定により無期限)の期限を決めて使う。期限が来るか、その前にチェックインされると自動で解除される。
隣接する4室を15分ホールドして、グループの予約に順に割り当てた。
「持ちこたえる」と「穴」、2つのholdの出自
野球のスコアブックでホールドの欄を数える人と、ばら積み船で No.1 hold、No.2 hold と番号を呼ぶ人は、同じカタカナを口にしている。英語の綴りも同じ hold である。ところが、語の出どころまで同じかというと、そうでもないらしい。
持つほうのホールド
野球のホールドは、英語版Wikipediaによれば1986年にジョン・デワンとマイク・オドネルが考案した記録である。抑えの投手に付くセーブとは違い、数の多い中継ぎ投手の働きに数字を与えるために作られた。MLBの公式記録ではなく、民間の集計から広まった指標だという。日本では、パ・リーグが1996年から採用し、2005年にNPBが現行の規定を定めてセ・パ両リーグで扱うようになった。その規定は、救援投手で勝利・敗北・セーブ・引き分けの記録を得なかった者に、条件を満たせばホールド1を与えるとしている。リードを保ったままマウンドを降りることが名前の由来にあたる、と読める。
証券会社のアナリストが使う投資判断のホールドは、持っている株を持ち続ける、という評価だ。クライミングの手がかりは、つかんで体を支える。三つとも動詞の hold(持つ、保つ)で説明がつく。ただしこれは語の働きから見た編集部の整理で、各業界が同じ語から別々に意味を作ったと確かめたわけではない。
穴のほうのホールド
船倉の hold は事情が違う。語源辞典 Etymonline によると、船の下層を指すこの語は、15世紀に中英語の holl(船の船体、船倉)が hold の形に変わったものだ。holl はもともと「穴、くぼんだ場所」や「殻」を意味する語に由来するらしく、中世オランダ語の hol(船倉)の影響も受けたとされる。「貨物を抱える(hold)から hold」という通俗的な理解に引かれて綴りが変わった、という説明も添えられている。
船倉は「穴」の仲間として生まれ、のちに「持つ」の綴りに寄っていった語になる。荷を抱える空洞だったものが、リードを持ちこたえた投手の記録と同じ綴りになった。
ばら積み船では、上の口をハッチカバーで閉じた船倉を、No.1 hold、No.2 hold と番号で呼び分ける。野球のスコアブックでホールドの欄を数えるのとは、同じカタカナでも別の場面である。