フック
フック
6つの業界で、それぞれ別の意味で使われています。
フック(ボクシング:横から回し打つパンチ/ゴルフ:利き腕と反対へ曲がる球筋)
hook
腕を鉤形に曲げて、相手の側面を打つこと。また、その打撃。
競技によって別の動きを指す。ボクシングでは肘を曲げ、体を回転させて側面から弧を描いて打つパンチで、短い距離で体重を乗せられる。ゴルフでは打球が途中から利き腕と反対側(右打ちなら左)へ大きく曲がることで、多くはミスショットとして扱われ、緩やかに曲がるドローとは区別される。
左フックでダウンを奪ったが、ティーショットは右打ちの球が左へ巻くフックになってしまった。
フック(曲の覚えやすい一節)
hook
聴き手の記憶に残るよう作られた、短いメロディー・リズム・歌詞の断片。サビに限らず、イントロやヴァースなど曲のどこにでも置ける。作曲では、聴き手を引っかけて曲を印象づける中心のアイデアとして意識される。
このイントロのギターリフがそのままフックになっている。
フック(釣り針)
hook
ルアー釣りで、ルアーに付ける針。1本針のシングル、2本のダブル、3又のトリプル(トレブル)があり、掛かりやすさと根掛かりのしにくさが異なる。ワーム用のオフセットフック、メタルジグ用のアシストフックなど、ルアーの種類ごとに専用品がある。
根掛かりが多いので、トリプルフックをシングルフックに交換した。
フック(動画広告の冒頭の引き)
hook
TikTokやInstagramリール、動画広告などで、最初の数秒に視聴者の注意をつかみ、先を見たいと思わせる冒頭部分。疑問を投げかける、意外な事実を示す、結果を先に見せるといった型がある。冒頭で離脱されると本編が見られないため、制作で最初に検討される。
離脱率が高いので、動画の冒頭3秒のフックを作り直した。
ニュースフック(報道の切り口)
news hook
記者や編集者の関心を引き、ニュースとして取り上げてもらうための切り口。時事との関連、意外な統計、見出しや画像の工夫、既存の話題への新しい角度などで作る。消費者ではなく記者に向けて、読者にとって報じる価値がある話だと納得させることが目的とされる。
発売日だけでは弱いので、季節の話題に結びつけたニュースフックを探した。
フック(処理の割り込み)
hook
プログラムの特定の箇所に、利用者が独自の処理を差し込めるようにする仕組み。差し込める位置は元の開発者があらかじめ決めており、初期化や入出力の前後がよく選ばれる。機能の追加・カスタマイズや、デバッグ用の情報収集に使う。
保存の直前に呼ばれるフックを使って、入力値の検査を追加した。
曲がった形と引っかける働き、フックが残したのはどちらか
ボクシングジムの選手と、ルアーに針を結ぶ釣り人は、どちらも「フック」と言う。動画の編集室でも、記者向けの発表資料の打ち合わせでも、同じ語が出る。どれも曲がったものの話なのだろうか。そうではなさそうだ。
英語の hook のおおもとは古英語の hōc で、「角、先端、鉤」を意味した。地名にも残っていて、オランダの Hook of Holland は、曲がって突き出た土地の名である。この語が最初に持っていたのは、曲がった形だった。
その形を、そのまま受け継いだ業界がある。ボクシングでは、肘を曲げて横から弧を描いて打つ打撃を hook と呼ぶ。この意味の記録は1898年にさかのぼる。ゴルフでは、球が途中から利き腕と反対へ曲がる。どちらも動きの軌道が鉤に似ているからだろう、とは思う。ただ、命名の経緯を書いた資料までは確認できていない。推測である。
釣り針になると、形より働きが前に出る。針が曲がっているのは、一度掛かった魚を逃がさないためだ。「掛けて離さない」という働きは、やがて形から独り立ちする。英語では、薬物に hooked(のめり込んだ)と言うのが1925年ごろ、危うい状況から off the hook(解放された)と言うのが1860年代で、もとは魚が針から外れた場面だという。
動画広告の冒頭3秒、曲の覚えやすい一節、記者の目を止めるニュースの切り口は、この働きの側に立つ。曲がりは何も残っていない。IT のフックも同じ側で、プログラムの途中に引っかけ口を作り、利用者の処理をそこに掛ける。
並べると、形を持ち帰ったのはスポーツの二つだけで、あとの四つは働きを持ち帰った。釣りだけが両方を持っている。
もっとも、ボクシングのフックにも働きはある。短い距離で体重を乗せ、相手の側面に当てる。編集者が冒頭を作り直すのは離脱を減らすためだ。釣り人がトリプルフックをシングルに替えるのは根掛かりを減らすためで、掛かりやすさを少し手放して、外れない一点を取る。針先が一本になったルアーを投げ込むとき、釣り人は、掛かる数を減らした分だけ、その一本に賭けている。