HP
エイチピー
6つの業界で、それぞれ別の意味で使われています。
ヒットポイント(体力値)
hit points
キャラクターや敵が受けられるダメージの残量を表す数値。0になると戦闘不能やゲームオーバーになり、回復アイテムや呪文、自動回復で戻せる。原型は1974年発売のテーブルトークRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』にあり、ゲーム画面では HP と略記されるのが一般的。
ボスのHPが残りわずかなので、回復せずに攻撃を押し切った。
馬力(英馬力)
horsepower
エンジンなどの出力を表す単位で、1HPは約745.7W。ヨーロッパや日本のカタログで使われるメートル馬力(PS、約735.5W)とは少し値が違うため、出力を比べるときは単位の確認が要る。
同じエンジンでも、HP表記ではPS表記よりも数字がやや小さくなる。
ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)
Helicobacter pylori
胃の粘膜に定着するらせん状の細菌で、慢性胃炎や胃・十二指腸潰瘍の原因になり、胃がんのリスクも高める。診療や検診の資料では学名を略して Hp(HP)と書くことがあり、除菌療法の対象になる。
内視鏡検査で萎縮性胃炎があったため、HP感染の有無を調べた。
ホームページ
home page
本来はブラウザ起動時に最初に表示されるページ、またはサイトの入口のページ。日本では転じて、企業や個人がインターネット上に公開するサイト全体を指す通称になっており、英語の website に当たる。「HP」「ホムペ」と略される。
会社のHPに採用情報のページを追加した。
馬力(空調機の能力区分)
horsepower
業務用エアコン(パッケージエアコン)の能力を表す呼び方で、設備工事の図面や見積では機種選定の目安として「○HP」と書く。空調機では1馬力がおおむね2.8kW相当の能力とされ、機械の仕事率の単位としての馬力とは別の、能力のランクを表す慣用である。
この会議室は4HPの天井カセット形を2台入れる計画にした。
ヒートポンプ
heat pump
電気を使って、空気や水、地中にある低温の熱を高温側へ汲み上げる技術。投入した電力の数倍の熱を得られるため、空調・給湯・産業用の加温や蒸気生成で化石燃料の代替となる省エネ・脱炭素の手段として扱われ、省エネルギー関係の技術資料では HP と略されることがある。
工場の加熱工程を、ボイラーから産業用HPに置き換える検討を始めた。
4HPのエアコンは、HPで動くHPだ
会議室の天井に4HPのカセット形を2台入れる。設備の図面に、そう書いてある。
この「HP」は馬力である。ところが同じ機械を、省エネの資料はヒートポンプと呼び、やはりHPと略すことがある。図面の上でも資料の上でも、指しているのは天井の同じ箱だ。同じ箱に二つのHPがついている。しかも綴りの由来はまるで別物で、片方は horsepower、もう片方は heat pump である。
馬力のほうから見る。空調機の1馬力は、「1馬力ほどの圧縮機モーターで、定格でおよそ2.8kW相当の熱をつくれる」という目安だと、空調機器の販売会社は説明している。ここで引っかかる。機械の仕事率としての1馬力は、メートル馬力で約0.7355kWだ。モーターが0.7kW台なのに、2.8kWの熱が出るという。計算すれば4倍近い。エネルギーが湧いて出たのだろうか。
そうではない。エアコンは、熱をつくる機械ではないからだ。圧縮機で冷媒を圧縮すると温度が上がり、膨張させると下がる。この性質を使って、冷房なら室内の熱を屋外へ、暖房なら屋外の熱を室内へ移している。使った電気の数倍の熱が動くのは、燃やして熱を出すのでなく、すでにそこにある熱を運んでいるからである。この運び方がヒートポンプで、電気ストーブと比べて3〜5倍の効率という説明もある。
すると、空調の馬力という数え方の奇妙さが見えてくる。圧縮機モーターという「入れる側」の大きさで、機械の能力という「運べる側」の大きさを呼んでいるのだ。入れた量より出てくる量が多いからこそ、2.8kWという数字は馬力の本来の換算とずれ、能力のランクを表す慣用になったのだろう。なぜその名で呼ぶようになったかの経緯までは、確かめられていない。確かなのは、現場が今もその呼び名で機種を選び、見積を取っていることである。
図面の「4HP」は、送り出す側の馬力の言葉で書かれている。資料の「HP」は、運ぶ仕組みの言葉で書かれている。同じ機械を、一方は入口の大きさで、もう一方は働きの種類で呼んでいる。
残りの四つのHPは、この箱とは関係がない。ゲームの画面では体力値、車のカタログでは英馬力で約745.7W、内視鏡の報告書ではピロリ菌、会社の採用情報の載ったページはホームページである。一つの略語に六つの意味があるなかで、二つだけが同じ天井から下がっている。
次に会議室の天井を見上げて、カセット形の吹き出し口が目に入ったら、図面の4HPと省エネ資料のHPは、そこで重なっている。