HT
エイチティー
2つの業界で、それぞれ別の意味で使われています。
高血圧症
hypertension
HT - [hypertension]
血圧が基準より高い状態が続く病気を短く書くための略語。日本循環器学会の循環器用語ハンドブックに、ICD-11 の「高血圧症」に対応する略語として載っている。同じ意味で HTN とも書かれる。
既往歴の欄に HT と書かれていたので、降圧薬の内服歴を確認した。
ハイパースレッディング
Hyper-Threading Technology
インテルの CPU 技術の略称。1つの物理プロセッサが2つのスレッドを同時に処理し、マルチスレッド対応のソフトウェアからはプロセッサが2つあるように見える。2002年に Pentium 4(3.06GHz)向けに発表され、使うには対応するチップセット・BIOS・OS が必要とされた。
ベンチマークを取り比べるため、BIOS で HT を無効にして再起動した。
同じhyperでも、下げたいHTと上げたいHT
既往歴の欄の「HT」は、降圧薬を飲んでいるかどうかを確かめる合図になる。BIOS 画面の「HT」は、オンかオフかを切り替える項目だ。どちらも頭文字は Hyper の H で、hyper- は「超えて」を表す接頭辞である。同じ「超える」なのに、片方は薬で下げたい対象で、片方は有効にして使いたい機能になっている。この違いはどこから来るのか。
hyper- の元はギリシャ語の hypér で、「上に、越えて」を意味する。Webster’s Revised Unabridged Dictionary(1913)は、ラテン語の super や英語の over と同じ系統の語とし、「過度の」「異常に大きい」という意味も添えている。接頭辞そのものは、良い悪いを決めていない。
決めているのは、超えられる側に基準線があるかどうかだ。
高血圧症(hypertension)は、血圧が基準より高い状態が続く病気である。日本循環器学会の循環器用語ハンドブックには、「HT - [hypertension]」という形で載っている。超えた先が病気なのだから、hyper- は警告として働く。診察室では、この HT を見つけたら、数値を下げる方向で話が進む。
Hyper-Threading Technology には、そういう基準線がない。インテルが2002年11月14日に出したプレスリリースは、3.06GHz の Pentium 4 に載せた新機能として紹介している。見出しは「ソフトウェアには、1つではなく2つのプロセッサが『見える』」。本文では、1つのプロセッサが2つのスレッド(処理の流れ)を同時にこなせるとされ、性能の向上は最大25%とある。超えた先は、売り文句である。
ただし、ここで超えたものは、プロセッサの数ではなかった。物理的なプロセッサは1つのままで、2つに見えるだけだ。性能も2倍ではなく、最大で25%増という数字が添えられている。名前の hyper- は「超えて」を思わせるが、数としては2倍にも届かない。
この名前に、インテルがどういう語感を狙ったのかは、確かめられていない。
冒頭の二つの「HT」に戻ると、扱い方の違いがはっきりする。カルテの HT は、基準線を越えた分を戻すために薬を選ぶ。BIOS の HT は、越えた分を使うか使わないかを、再起動のたびに選ぶ。ベンチマークを比べたいときは、見え方を2つから1つに戻すために HT を無効にする。血圧のほうは、そう簡単には無効にできない。