用語

ジグ

ジグ

3つの業界で、それぞれ別の意味で使われています。

機械・生産

治具

jig

加工・組立・検査のとき、部品を所定の位置に固定し、刃物や工具の動きを正しく導くための補助器具。作業者が違っても同じ位置・同じ精度で仕上がるように使い、量産の品質を安定させる。英語の jig に漢字を当てて「治具」と書く。

組立のばらつきを抑えるため、基板を決まった向きで押さえる治具を作った。

アウトドア・釣り・キャンプ

メタルジグ(釣りのルアー)

metal jig

鉛やタングステンなどの金属でできた、小魚に似せた疑似餌(ルアー)。比重が重く沈みが速く、遠くへ投げやすい。岸から投げる軽いものはショアジギング、船から落とす重いものはオフショアジギングに使い、巻き上げやしゃくりで魚を誘う釣りを「ジギング」という。

青物を狙って、40gのジグを岸から遠投した。

音楽(演奏・楽器)

ジグ(舞曲)

jig

イギリス・アイルランドに由来する活気ある舞曲で、8分の6拍子を中心とする複合拍子が多い。1650〜1750年ごろの組曲では主要な楽章の一つで、一般に終曲に置かれた。アイルランド音楽では、8分の6拍子のダブルジグ、8分の9拍子のスリップジグなどに分けられる。

セッションの締めに、速い6/8拍子のジグを続けて演奏した。

跳ねる語が、動かない道具の名になった

ジグと聞いて、工場の人は部品を押さえる台を思い浮かべ、釣り人は海へ投げる金属の魚を思い浮かべ、アイルランド音楽の奏者は6/8拍子の速い曲を思い浮かべる。

三つを並べると、おかしなことに気づく。ダンスのジグは跳ねる踊りで、釣りのジグは、しゃくって上下に動かしてこそ魚を誘う。どちらも「動く」ものだ。ところが治具だけは、部品を所定の位置に固定して、動かさないために使う。同じ綴りの語が、なぜ正反対の働きを担っているのか。

語源の辞典によると、英語の jig が「活発で不規則な踊り」の意味で現れるのは1560年代で、その曲の意味は1580年代からある。語源ははっきりしないが、中世英語の gigge(フィドル)や、フランス語の gigue(舞曲の名でもある)につながるのではないか、という説明が添えられている。釣りの jig も、辞典の説明では、水中で上下に引く(jerk する)ための針や疑似餌を指す。動きの語としては、ここまでが一続きになっている。

では、道具のほうはどこから来たのか。同じ辞典に、手近な仕掛けや工夫を指す総称としての jig が1875年から見える、とある。踊りの意味から約300年遅れて、ほとんど別の語のように現れたことになる。跳ねる動きがそのまま道具に引き継がれたのだろう、と私は最初思った。しかし辞典はその橋渡しを書いていない。あるのは「手近な仕掛け」という広い呼び名だけで、固定する道具に限った意味でもない。つながっているかどうかは、確かめられなかった。

日本語に入ってくると、事情はさらに変わる。「治具」は英語の jig に当てられた漢字で、コトバンクにも当て字と明記されている。治は「おさめる、ととのえる」の字、具は道具の字だ。音を借りて当てただけの字が、書いてみると「ととのえる道具」という働きにぴたりと合ってしまった。釣りのジグは「メタルジグ」とカタカナで書かれ、音楽のジグもカタカナのまま残った。漢字を与えられたのは、動かない道具だけである。

おかげで日本の現場では、紙の上で見分けがつく。治具と書いてあれば固定の話、ジグとカタカナで書いてあれば、釣具店か音楽の場の話と考えてほぼ間違いない。耳で聞くと三つとも同じ「ジグ」なのに、である。

釣具店の棚には、40gのメタルジグが並んでいる。重くて、よく沈む。工場の作業台に置かれた治具は、同じ音でありながら、一ミリも動かないことで仕事をしている。跳ねるための語と、動かさないための語が、片仮名と漢字に分かれて、同じ読みのまま別々の場所に立っている。