LC
エルシー
6つの業界で、それぞれ別の意味で使われています。
信用状
Letter of Credit
輸出入の代金回収リスクを減らすため、輸入者の依頼で銀行が発行する支払い確約書。輸出者は、記載された条件どおりに船積みし、必要書類を銀行に呈示すれば代金を受け取れる。商社の貿易実務では「L/C」と書き、開設・通知・船積・書類呈示・決済の順で進む。
先方からL/Cが届いたので、記載条件に合わせて船積書類をそろえます。
液体クロマトグラフィー
Liquid Chromatography
液体を移動相として使い、混合物の成分を固定相との相互作用の差で分離する分析手法。検出や定量に使い、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)が代表的な装置になる。質量分析計と組み合わせた LC-MS のように、他の手法の前段としても使われる。
この試料はLCで分離してから成分ごとに定量します。
LC回路(共振回路)
inductor-capacitor circuit
インダクタ(L、コイル)とコンデンサ(C)を組み合わせた回路。両者の間でエネルギーをやり取りして振動し、特定の周波数でインピーダンス(交流での電流の流れにくさ)が極端に変わる。この共振を使って、特定周波数だけを取り出すフィルタや発振回路を作る。
このフィルタはLC回路で共振周波数だけを通す設計です。
LCコネクタ(光ファイバーコネクタ)
Lucent Connector
光ファイバーケーブル用の小型コネクタ。SCコネクタより小さい1.25mmのセラミックフェルール(ファイバーを保持する筒)を使い、プッシュプル式で着脱できる。小型のため高密度に実装でき、データセンターやサーバールームの配線、高速イーサネットで広く使われる。
スイッチの光ポートに合わせて、LCコネクタ同士のパッチケーブルを発注した。
腹腔鏡下胆嚢摘出術
Laparoscopic Cholecystectomy
腹腔鏡(腹部に小さな穴を開けて入れるカメラ)を使い、胆石症などで胆嚢を取り除く手術。開腹手術に比べ傷が小さく、回復が早いとされる。カルテや手術記録では「LC」と略される。
胆石発作を繰り返すため、来週LCの予定です。
液晶(液晶材料)
Liquid Crystal
ディスプレイの表示に使う液晶材料を、化学メーカーが「LC」と呼ぶ。TFT駆動のディスプレイ向けや、パッシブ駆動のディスプレイ向けなど用途別に製品が分かれる。化学メーカーが機能性材料の事業として手がけ、事業撤退の発表でも「LC材料」と表記される。
TFT向けのLC材料は海外メーカーとの競争が厳しく、事業の見直しが続いている。
LCのLは、人名と社名と単語に分かれる
LC回路のLは、インダクタンスの頭文字ではない。頭文字ならIになるはずだが、Iは電流の記号としてすでに使われている。Lは、電磁誘導を研究した物理学者ハインリヒ・レンツ(1804〜1865)にちなむ記号だというのが通説だ。Wikipedia英語版の「Inductance」にも、「It is customary to use the symbol L for inductance, in honour of the physicist Heinrich Lenz.」とある。
では、隣のCはどうか。こちらはキャパシタンス、つまりコンデンサの頭文字をそのまま取っている。同じ回路図に、人の名前の頭文字と、物の名前の頭文字が並んでいる。
LCの2文字を別の業界で見ると、Lの出どころはまた変わる。
光ファイバーのLCコネクタでは、Lは会社の名前だった。LCは「Lucent Connector」で、Lucent Technologies が作った小型コネクタである。同社がAT&Tから分離したのは1996年9月30日。2006年12月1日にはアルカテルに買収され、Alcatel-Lucent になった。社名はそこで終わったが、コネクタの名前は残っている。いまデータセンターで1.25mmのフェルールを差し込む人の多くは、Lucentという会社を知らないまま「LC」と呼んでいるはずだ。
しかも社名のほうは、由来の読み方が一つに定まっていない。LCコネクタは「Little Connector」や「Local Connector」とも説明される。これが最初からの名前なのか、Lucentが見えにくくなってからの読み替えなのか。確認できた資料には、その順序を書いたものがなかった。
ほかの四つは、Lがごく普通の単語から来ている。貿易の信用状は Letter of Credit、医療の腹腔鏡下胆嚢摘出術は Laparoscopic Cholecystectomy。分析の液体クロマトグラフィーは Liquid Chromatography で、化学メーカーが液晶材料をいうときの LC は Liquid Crystal である。人の名前でも会社の名前でもない。
この四つのうち二つは、同じ Liquid から始まる。試料の成分を分ける手法と、ディスプレイに使う材料が、どちらも「液体」の頭文字でLCと略されている。後者は、DIC がLC材料事業からの撤退を知らせた文書でも「LC材料」と表記された。TFT駆動向けやパッシブ駆動向けと用途別に分かれた製品が、この2文字でひとまとめに呼ばれている。
数えてみると、六つのうち四つは単語の頭文字、一つは人、一つは会社になる。単語の頭文字は、時間が経っても意味が読み取れる。人名や社名は、由来を知らなければ読み取れない。回路図の L を見る人は、たいていレンツの名前を思い出さないまま、インダクタンスを読んでいる。