ロック
ロック
5つの業界で、それぞれ別の意味で使われています。
ロック(ラグビー:第2列)
lock
ラグビーのフォワード第2列のポジション。背番号は4番と5番をつける。ラインアウト(ボールを投げ入れて競り合うプレー)では持ち上げられて跳ぶジャンパーを務め、スクラムではプロップ(最前列の選手)を後ろから押して組を安定させる。長身で大柄な選手が向く。
ラインアウトの獲得率を上げるために、ロックにジャンプ力のある選手を置いた。
ロック(データベース:排他制御)
lock
複数の処理が同じデータを同時に扱うときの矛盾を防ぐため、データに掛ける制約。参照用の共有ロックは他の参照を許し更新を止める。更新用の排他(専有)ロックは他の参照も更新も止める。掛ける単位は行や表など。互いに相手のロック解除を待って止まる状態がデッドロック。
更新が長引いて行ロックが解放されず、ほかのトランザクションが待たされている。
ロック(ロックミシン・かがり縫い)
overlock sewing machine
布の端がほつれないよう糸でかがる縫い方(かがり縫い)に特化したミシン、ロックミシンの略。複数の針と糸を使い、家庭用ミシンのボビンの下糸の代わりにルーパーで糸を絡める。伸縮性のあるニット生地の縫い合わせにも向く。かがり縫い専用で、ふつうの直線縫いはできない。「巻きロック」などの縫い方の名前にも使う。
裁ち端はロックミシンで始末してから、ふつうのミシンで縫い合わせた。
ロック(オン・ザ・ロックの略)
on the rocks
氷を入れたグラスに酒を注いで出す飲み方。バーや飲食店では「ウイスキーをロックで」のように、オン・ザ・ロックを略して注文する。ロックグラスやタンブラーを使う。丸く大きな氷は溶けにくく温度がゆっくり下がり、小さなキューブ氷は急に冷えて口当たりが爽快になる。氷の形で味わいが変わる。
最初の一杯はハイボールで、二杯目はロックでお願いします。
ロック(タイヤ・車輪の回転停止)
wheel lock
ブレーキを強くかけたときなどに、タイヤの回転が止まったまま路面を滑る状態。ロックすると車両の進行方向が不安定になり、ハンドルを切っても障害物を避けにくくなる。これを防ぐ装置がABS(アンチロック・ブレーキ・システム)で、タイヤがロックしそうになると作動し、ブレーキ力を細かく調整する。
雪道で急ブレーキを踏んだら、後輪がロックして車体が横に振られた。
「ロックで」の鍵は、錠前ではない
バーで「ウイスキーをロックで」と頼む。出てくるグラスには氷が入っている。ところで、この「ロック」は、ドアの鍵のロックと同じ語なのだろうか。そうだと思って、酒を「鍵をかけたように」冷たく閉じ込める飲み方だと受け取っていた人もいるかもしれない。
違う。オン・ザ・ロックは on the rocks で、綴りは rock である。錠前の lock ではない。ウィキッドの「オン・ザ・ロック」は、この rocks を氷を指すものとして読んでいる。ただし記事は由来を断定していない。紹介されているのは、冷蔵庫が普及する前のスコットランドで、冷たい川の小石を飲み物に入れて冷やしたという、ウイスキー製造業者の主張する説である。氷が先か、石が先かは、読んだ範囲では決着していない。
一方、同じ見出し語の残りの業界は、英語でも lock のほうに寄っている。データベースの排他制御は lock で、更新中のデータに他の処理が触れるのを止める。互いに相手の解除を待って止まれば、デッドロックになる。車のタイヤは、ブレーキで回転が止まったまま路面を滑るとき、ロックしたと言う。国土交通省の資料は、ロックすると進行方向の安定性が失われ、ハンドルを切っても障害物を避けにくくなると説明し、それを防ぐ装置を「アンチロックブレーキシステム」、つまり ABS と書いている。ここでの lock は、動くものを止める意味である。
ラグビーのロックとロックミシンも、辞書の見出し語としては lock と overlock にあたる。なぜそう呼ぶのかという由来までは、確かめられていない。ここで言えるのは、綴りの上で rock を使うのが、五つのうちオン・ザ・ロックだけだということだ。
そのオン・ザ・ロックだけが、止めない。氷は動かず、酒を冷やしながら少しずつ溶けていく。丸く大きな氷は溶けにくく、小さなキューブ氷は急に冷える、と飲食店の解説は言う。止まっているのはグラスの中の氷だけで、あとは時間とともに味が変わっていく。
カタカナで「ロック」と一語に畳まれると、錠前と岩が同じ顔をする。居酒屋の注文で「ロックで」と言った人が、スクラムを押す人とも、更新を待たされる処理とも、凍った路面で後輪を滑らせた人とも、同じ語を使っている。綴りを知らなければ、グラスの氷だけが、錠の意味を持っていないことには気づけない。