ミックス
ミックス
5つの業界で、それぞれ別の意味で使われています。
ミックス(ミックスダウン)
mixing
録音した多数のトラック(ドラム・ベース・ボーカルなど)の音量バランスや音質を整え、ステレオ2チャンネルなどにまとめる工程。イコライザーやコンプレッサーで各トラックの音を調整する。完成した2ミックスの全体の音量・音質を媒体に合わせて整えるマスタリングとは別の工程で、その前に行う。
ボーカルが埋もれているので、ミックスでギターの帯域を少し削ってほしい。
ミックスダブルス(混合ダブルス)
mixed doubles
男女が1組になって戦うダブルス種目。テニス・バドミントン・卓球などにあり、卓球では東京五輪で新たに加わった。卓球のミックスダブルスはルールが通常のダブルスと同じで、2人が必ず交互に打つ点が戦略の要になる。
ミックスダブルスは、男女どちらが前に出るかで戦い方が大きく変わる。
マーケティングミックス
marketing mix
市場や自社の分析を終えたあと、具体的にどの施策を実行するかを決める段階で、製品(Product)・価格(Price)・流通(Place)・プロモーション(Promotion)の4Pを組み合わせて設計する。企業視点で組み立てる4Pに対し、顧客視点で考える4Cと対比される。
新商品の価格を下げるなら、流通とプロモーションも含めてマーケティングミックスを見直そう。
エネルギーミックス(電源構成)
energy mix
電気の安定供給のため、火力・水力・原子力・再生可能エネルギーなどを、それぞれの強みと弱みを補い合う最適なバランスで組み合わせること。日本では安全性を前提に安定供給・経済効率性・環境適合を同時に満たす3E+Sの考え方で、2030年度の電源構成目標などが示されてきた。
再エネの比率を上げるには、エネルギーミックス全体で調整力をどう確保するかが課題になる。
ミックス犬
mixed-breed dog
品種の異なる純血種どうしを交配して生まれた1代限りの交配種の犬。親の血統がわからなくなった雑種と区別するために使われる呼び方。
この子はチワワとダックスのミックス犬で、親犬の両方を見て性格を確かめた。
混ぜたあとも、材料が見分けられるミックス
「ミックスをお願いします」と言われたとき、頼まれたのは何だろう。録音スタジオなら音量の調整、テニスコートなら男女のペアの試合、マーケティング会議なら施策の組み合わせ、電力会社なら発電方法の配分、ペットショップなら犬の種類になる。同じ五文字なのに、混ぜているものも、混ぜている人も違う。
混ぜる人から並べてみる。音のミックスでは、エンジニアがドラム、ベース、ボーカルなど何本ものトラックを、ステレオの2チャンネルなどにまとめる。そのとき、ひとつの帯域を削って別の楽器を前に出すような調整をする。例文にあるとおり、「ボーカルが埋もれているので、ギターの帯域を少し削ってほしい」と言うのは、混ぜる人への注文だ。マーケティングでは、混ぜる人は企業の担当者になる。製品、価格、流通、プロモーションの4Pを組み合わせて、どの施策を打つかを決める。
この「混ぜる人」という見立ては、マーケティングの側では語の成り立ちにまで届いている。英語版ウィキペディアによると、1948年にハーバードの教授ジェームズ・カリトンが、マーケティングの担当者を「材料を混ぜる人(mixers of ingredients)」と書いた。同じ大学のニール・ボーデンはこれに触発され、「マーケティング・ミックス」の語を使い始めたとされ、1953年の米国マーケティング協会の会長講演でも使っている。4Pの形にしたのは、1960年のE・ジェローム・マッカーシーだという。ただし、カリトンが最初の例かどうかは、私は原典で確かめていない。
では、混ぜたあと、材料は見分けられるのか。
音は、混ぜたあと見分けにくくなる。ボーカルとギターは1本の信号に畳まれて、あとから片方だけ取り出すことはできない。その畳んだ2本を、媒体に合わせて整えるのがマスタリングで、ミックスの次の工程だ。畳む前に直せるのは、ミックスの間だけになる。
エネルギーのミックスは逆に、材料が見分けられるまま、割合だけを決める。火力、水力、原子力、再生可能エネルギーを、弱点を補い合う配分で組み合わせる。日本では、安定供給、経済効率性、環境適合を安全性の前提のうえで同時に満たす3E+Sの考え方で、2030年度の電源構成の目標などが示されてきた。混ぜても、水力は水力のまま数えられる。
ミックスダブルスは、混ぜても溶けない。男女が1組になって戦うダブルスで、卓球では東京五輪で新たに加わった。卓球ではルールが通常のダブルスと同じで、2人が必ず交互に打つ。つまり、2人の打球は一度も混ざらず、順番に並ぶだけだ。
ミックス犬は、混ぜたのが人で、結果が体に残る。品種の異なる純血種どうしを交配して生まれた1代限りの犬を指し、親の血統がわからなくなった雑種と区別するための呼び方だという。チワワとダックスのミックスなら、どちらの親の面影が出るかは、生まれてみないとわからない。
音は畳まれて戻らず、電源は割合のまま残り、ペアは交互に並び、犬の体には親が両方出る。混ぜる相手は信号、施策、発電所、選手、親と、まるで違う。
冒頭の「ミックスをお願いします」に戻ると、スタジオなら、頼まれたのはあとから戻せない作業だ。コートなら、頼まれたのは2人の順番になる。