用語

マウント

マウント

5つの業界で、それぞれ別の意味で使われています。

写真・カメラ

レンズマウント

lens mount

レンズマウントとは、一眼レフカメラなどの交換レンズをカメラに固定させるための、レンズ側の取り付け部分のことをいいます。

出典:キヤノン 写真用語集「レンズマウント」

交換レンズをカメラボディに取り付けて固定するための接続部。メーカーや機種ごとに形状が違い、オートフォーカスや絞りの情報をやり取りする電子接点も並ぶ。規格の違うレンズはそのままでは付かないため、レンズ選びはまずボディのマウント規格に合うかどうかを確かめるところから始まる。

このボディはマウントが違うので、手持ちのレンズはアダプターを挟まないと付かない。

スポーツ・フィットネス

マウントポジション(格闘技)

mount (mounted position)

格闘技の寝技で、倒した相手の胴体にまたがって馬乗りになった体勢。相手の動きを封じて有利に立てるため、上から打撃や絞め技、関節技につなげる起点になる。下になった側は、ブリッジなどで脱出を狙う。

テイクダウンのあとすぐマウントを取り、そこから打撃で攻めた。

インフラ・クラウド・セキュリティ

マウント

mount

HDD・USBメモリ・DVDなどの記憶領域(ファイルシステム)を、OSのディレクトリ階層の一か所(マウントポイント)に結び付け、読み書きできる状態にする操作。Linux などでは mount コマンドで行い、外すときは umount(アンマウント)する。

追加したディスクを /data にマウントしてから、バックアップを書き込む。

半導体・電子部品

マウント(部品搭載・実装)

mount (surface mount)

電子部品をプリント基板に載せる工程。表面実装ではチップマウンターという機械が、はんだペーストを塗った基板の所定位置に部品を自動で載せ、あとでリフロー炉ではんだ付けする。部品の位置座標を記したデータはマウントデータと呼ばれる。

このラインはマウンターの速度がボトルネックになっている。

生命科学・バイオ

標本の封入(マウント)

mounting

顕微鏡で観察するために、標本をスライドガラスに載せ、封入剤(マウント剤、mounting medium)で包んでカバーガラスをかぶせ、固定すること。封入剤の屈折率を対物レンズの浸液に合わせると収差が減り、解像度が上がる。脱水を経てから使う非水溶性の封入剤と、脱水せずに使う水溶性の封入剤がある。

染色した切片をカバーガラスで挟み、封入剤でマウントして観察した。

マウントが指すのは、部品か動作か体勢か液体か

カメラ店で「マウントが違うので付きません」と言われたら、違っているのは金属の口金の形だ。サーバーの手順書で「/data にマウントしてから書き込む」とあれば、するのは操作である。格闘技の実況が「マウントを取った」と叫ぶとき、取ったのは体勢だ。同じ語が、物にも動作にも姿勢にもなるのはなぜだろう。

五つの業界を並べると、共通点はすぐ見つかる。どれも、何かを土台の上に固定している。

  • 写真:ボディにレンズを固定する。キヤノンの写真用語集は、レンズマウントを「一眼レフカメラなどの交換レンズをカメラに固定させるための、レンズ側の取り付け部分のことをいいます」と説明する
  • 格闘技:倒した相手の胴体にまたがって馬乗りになる
  • IT:HDD や USB メモリの記憶領域を、ディレクトリ階層の一か所(マウントポイント)に結び付ける
  • 電子部品:チップマウンターが、はんだペーストを塗った基板の所定位置に部品を載せる
  • 生命科学:スライドガラスに載せた標本を封入剤で包み、カバーガラスをかぶせて固定する

固定するという骨組みは同じなのに、語が名指すものは五つで違う。写真では部品そのもの。格闘技ではまたがった姿勢そのもの。ITでは結び付ける動作で、外すときは umount と対の語がある。電子部品の現場では、動作ではなく機械が「マウンター」になり、載せる位置を記したデータが「マウントデータ」になる。

いちばん取り違えやすいのは、生命科学だろう。標本を包む液は「マウント剤」、英語では mounting medium と呼ばれる。ここでマウントは、固定する動作でも、固定された状態でもない。固定に使う材料の名前にまで広がっている。Nikon の顕微鏡用語集には、封入剤の屈折率を対物レンズの浸液に合わせると収差が減る、という趣旨の説明がある。液体の性質が像の質を左右するから、液体に名前がつくのも不自然ではない。

ただし、写真にも電子の側面はある。レンズマウントにはオートフォーカスや絞りの情報をやり取りする電子接点が並ぶ。固定する部品が、固定したあとの情報の通り道まで兼ねている。基板の実装でマウントデータが「どこに載せるか」を持つのと、少し似ている。両者を同じ仕組みと言うには材料が足りないので、似ていると言うにとどめる。

では、五つのうち、載せたあとに外せるのはどれか。レンズはアダプターを挟んで付け替えられる。ディスクは umount で外せる。標本のマウントは、固定剤で封じるので、外すことを前提にしていないものが多いはずだ。この点は個々の封入剤の仕様まで確かめていないので、推測にとどめる。

カメラ店のカウンターに戻ると、「マウントが違う」と言われた客が次に聞くのは、アダプターがあるかどうかだ。サーバーの前なら umount、顕微鏡の前なら封入剤の種類を聞く。同じ一語で、問い返す内容が三つの業界でまるで違う。