略語

OTC

オーティーシー

4つの業界で、それぞれ別の意味で使われています。

製薬・創薬

OTC医薬品(一般用医薬品)

over-the-counter drug

医師の処方箋なしに、薬局やドラッグストアで消費者が自分の判断で購入できる医薬品の通称。製薬会社の製品区分では医療用医薬品と対になる。処方薬を一般用に転用する「スイッチOTC」や、購入額を所得控除できるセルフメディケーション税制など、制度の話題でもよく使われる。

この成分は医療用から転用されて、スイッチOTCとして発売された。

証券・投資

店頭取引(OTC取引)

over-the-counter

取引所を通さず、証券会社や金融機関と顧客、または当事者どうしが価格・数量・決済方法を相対で決めて行う取引。スワップや為替予約などのOTCデリバティブが代表例で、条件を個別に設計できる反面、取引相手の信用リスクを負う。

金利スワップはOTCで取引されるため、相手方の信用リスクも管理しなければならない。

医療・医学

OTC欠損症(オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症)

ornithine transcarbamylase

尿素回路の酵素であるオルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)の働きが、X染色体上のOTC遺伝子の異常で低下する先天代謝異常症。アンモニアを解毒できず高アンモニア血症になる。男児の新生児期に哺乳不良や意識障害で発症する重症例が多い一方、軽症の例もある。薬の OTC とは無関係。

原因不明の高アンモニア血症で、OTC欠損症の遺伝子検査を行った。

自然・環境

オープントップチャンバー

open-top chamber

上部が開いた囲いの中で植物を育て、オゾンなど大気汚染物質の影響を野外に近い条件で調べる実験装置。汚染物質を除いた空気を送る浄化室と、外気をそのまま送る非浄化室で植物の生育を比べ、影響を見積もる。CO2濃度上昇の影響を調べる研究にも使われる。

オゾンによる作物の収量低下を、オープントップチャンバーで調べた。

カウンターを挟む二つのOTCと、挟まない二つ

ドラッグストアの棚に並ぶOTC医薬品と、証券会社が提示するOTCデリバティブは、どちらも over-the-counter の略である。展開した英語が同じなのは、偶然ではない。

薬のOTCは、医師の処方箋を挟まずに買える薬を指す。金融のOTCは、取引所を挟まずに当事者どうしで条件を決める取引を指す。辞書サイトの Dictionary.com によれば、名詞句としての “over the counter” の記録は1870〜75年ごろ、形容詞としての “over-the-counter” は1920〜25年ごろとされている。もとにあるのは、売り手と買い手がカウンターを挟んで直接やりとりする店の風景である。そこから、薬では処方という手続きの省略が、金融では取引所という場の省略が、それぞれ意味として出てきた。省かれるものは違っても、間に入る仕組みがないという点は共通している。

日本語での扱いの違い

同じ出自の語なのに、日本語での扱いは揃っていない。金融では「店頭取引」と訳され、訳語の中に「店頭」が入っている。薬では、法令上の区分である「一般用医薬品」と並んで、略称のまま「OTC医薬品」が通称になった。訳し方が分かれた理由は、今回確認できた資料からはわからない。

カウンターと関係のない二つ

OTCにはあと二つ、カウンターとは無関係の意味がある。医療のOTCは、尿素回路の酵素オルニチントランスカルバミラーゼ(ornithine transcarbamylase)の略である。OTC欠損症は、この酵素の遺伝子の異常でアンモニアを処理できなくなる病気で、検査では高アンモニア血症として表れる。環境分野のOTCは open-top chamber で、上部が開いた囲いの中で植物を育て、オゾンなどの大気汚染物質の影響を調べる実験装置を指す。

展開形を並べると、counter、transcarbamylase、chamber の三つになる。counter は薬と金融が共有する語で、あとの二つは別の語の頭文字がたまたまOTCになった。薬局でOTCと聞いて思い浮かべる絵は、検査結果に出てくるOTCにも、実験装置のOTCにも当てはまらない。後者の囲いで開いているのは、カウンターではなく天井である。