用語

パス

パス

6つの業界で、それぞれ別の意味で使われています。

スポーツ・フィットネス

パス(球技:味方へのボールの受け渡し)

pass

サッカーなどの球技で、ボールを蹴ったり投げたりして味方に渡すプレー。攻撃を組み立てる基本動作で、パスを得意とする選手を「パサー」と呼ぶ。距離によってショートパス、ロングパスなどと呼び分ける。

中盤でパスをつないでから、サイドへ大きく展開した。

遊技・公営競技・盤上遊戯

パス(囲碁:着手放棄)

pass

囲碁で、自分の手番に石を置かず、相手に手番を渡すこと。二人が連続してパスをすると終局処理に入る。実戦では、パスの代わりに両対局者の合意で終局へ移ることが多い。

お互いに打つ所がなくなり、連続でパスして終局した。

IT・システム開発

パス(ファイルの所在を示す文字列)

path

パスは、ファイルまたはディレクトリの場所を提供する文字列です。

出典:Microsoft Learn『Path クラス (System.IO)』・Microsoft

ファイルやフォルダ(ディレクトリ)がどこにあるかを文字列で表したもの。ドライブやルートから完全に指定する絶対パスと、現在の場所を起点にする相対パスがある。環境が変わると相対パスの起点がずれ、「ファイルが見つからない」不具合の原因になりやすい。

設定ファイルのパスが環境ごとに違っていて、本番で読み込みに失敗した。

医療・医学

パス(クリニカルパス:標準診療計画)

clinical pathway

病院で、入院から退院までの検査・治療・ケアの予定を時系列で一覧にした標準の診療計画「クリニカルパス」の略した呼び方。標準からのずれ(バリアンス)を分析して医療の質を上げるために使う。院内では「パス大会」「パス委員」のように、略してパスと呼ばれる。

この手術はパスがあるので、術後の食事開始日もパスどおりに進めます。

機械・生産

パス(溶接:溶接線を1回通す作業)

pass

溶接で、溶接線に沿って1回溶接する一続きの作業、またその1回分のこと。厚い板の継手は1回で埋めきれないため、パスを何度も重ねる多パス(多層)溶接になる。次のパスを溶接する直前の温度を管理する「パス間温度」など、パス単位で条件を管理する。

板厚が厚いので、初層から仕上げまで6パスで溶接した。

素材・化学

パス(圧延:ロールを通す1回の圧下)

pass

鉄鋼の圧延で、材料をロールの間に1回通して断面を減らす工程の1回分。素材から製品の寸法まで何パスで圧延するか、各パスの断面積をいくつにするかを決めた計画を「パススケジュール」と呼び、設備計画の基本になる。

この製品径は、素材から何パスで圧延するかをパススケジュールで決める。

「6パス」の6は、渡した数ではない

厚い鋼板を「6パスで溶接した」と聞いて、ボールが6回渡ったと思う人はいないだろう。溶接のパスは、溶接線に沿って一続きに溶接する作業の1回分だ。厚い継手は一度に埋めきれないので、同じ線の上を重ねて通る。

数えているのが「通した回数」だとわかるのは、管理のしかたからだ。日建連の鉄骨工事Q&Aは、パス間温度を「多パス溶接において1回のパスの溶接が終わり、この上に次のパスを溶接する直前の溶接線近傍の母材の温度」と定義している。パスとパスのあいだに温度を測るほど、1回ごとが管理の単位になっている。

圧延にも同じ数え方がある。棒鋼の圧延では、材料が孔型ロールを1回通るたびに断面積と形状が変わり、その1回がパスだ。素材から製品まで何パスで仕上げるか、各パスの断面積をいくつにするか。それを決めた計画がパス・スケジュールである。1971年の日立評論は、この計算が「熟練した一人の技術者が1個月近くかかる膨大な繰返し計算」だったと書き、電子計算機で機械化した報告をしている。

サッカーのパスは味方にボールを渡し、囲碁のパスは石を置かずに手番を相手へ渡す。ここに溶接と圧延の「通す」が加わる。いずれも綴りは pass だ。

では、カタカナの「パス」はすべて pass なのか。そうではない。ITのパスは path で、Microsoft Learn は「パスは、ファイルまたはディレクトリの場所を提供する文字列です。」と説明している。病院のパスも道筋の側にある。日本クリニカルパス学会の英語名は Japanese Society for Clinical Pathway で、入院から退院までの予定を並べた標準診療計画を指す。福井県立病院の院内発表資料には「パス大会」「パス委員」とあり、院内では略して「パス」と呼ばれている。

六つの業界を並べると、綴りは pass と path の二種類、動きは「渡す」(球技・囲碁)、「通す」(溶接・圧延)、「道」(IT・医療)の三種類に分かれる。

溶接の施工記録に「6パス」とあれば、数えられているのは溶接線の上を通った回数だ。そこにボールも石もファイルも出てこない。