用語

ピッチ

ピッチ

7つの業界で、それぞれ別の意味で使われています。

音楽(演奏・楽器)

音高・基準ピッチ

pitch

音の高さを周波数(Hz)でとらえた言い方。合奏では全員の調律の基準になる音(A4など)の周波数を「基準ピッチ」と呼び、国際標準はA4=440Hzだが、クラシックの現場では442Hzが使われることも多い。

今日の合奏は442Hzのピッチに合わせてチューニングしてください。

半導体・電子部品

端子間隔・ピッチ

pitch

コネクタのピンやICのリード(端子)などで、隣り合う端子の中心から中心までの距離。基板の穴あけ位置やパッド設計に直結するため、部品選定では最初に確認する仕様になる。ヘッダーピンの2.54mm(0.1インチ)が代表的な標準値。

このコネクタは0.5mmピッチなので、手はんだは難しい。

機械・生産

ねじ山・歯・チェーンの間隔

pitch

機械要素で、隣り合うねじ山や歯などの間隔。ねじでは、M8×1.25のように呼び径の後ろにピッチを添えて規格を示す(並目は省略することが多い)。1回転で進む距離はリードと呼んで区別し、一条ねじではピッチと等しい。歯車やチェーンでも、隣り合う歯やリンクの間隔を指す。

並目と細目はピッチが違うので、ボルトとナットの組み合わせを間違えないように。

スポーツ・フィットネス

競技場(サッカー等)/歩数(ランニング)

pitch

サッカーやラグビーなど英国発祥の競技では、ライン表示された競技場そのものをピッチと呼ぶ。一方、ランニングでは単位時間あたりの歩数(ケイデンス)を指し、走速度はピッチ×ストライド(歩幅)で表されるため、ピッチ走法・ストライド走法という言い方がある。

雨でピッチが荒れて、パスがつながらなかった。

広告(マス・屋外・販促)

競合プレゼン(エージェンシーピッチ)

pitch

広告主が代理店を選ぶため、複数の広告代理店に企画案を競わせて提案させる場。欧米の広告業界での呼び方で、代理店選定を支援する「ピッチコンサルタント」という業態もある。日本では「コンペ」「競合プレゼン」と呼ぶことが多い。

来月の新規ピッチに向けて、チームで企画書を詰めている。

証券・投資

投資家向けの短い発表

pitch

起業家が投資家に事業内容や成長性を5〜10分ほどで売り込む短い発表。資金調達の場で行われ、ピッチイベントで複数社が競うこともある。使う資料はピッチデッキと呼ぶ。シリコンバレーから広まった語で、野球の投球に由来するともいわれる。

デモデイのピッチで、シード調達の面談につながった。

航空

ピッチ(縦揺れ・機首の上下)

pitch

機体の左右方向の軸まわりの回転で、機首が上下に動く動き。ロール(前後軸)、ヨー(垂直軸)と並ぶ3軸の1つで、昇降舵(エレベーター)で操作する。上昇・降下の基本動作にあたる。

離陸後はピッチを上げて、規定の上昇姿勢を保つ。

杭を打つ語が、音の高さと投球と売り込みになった

楽団が合わせる442Hzも、基板の設計者が測る2.54mmも、現場では「ピッチ」と呼ばれる。サッカーでは競技場がピッチで、広告代理店や起業家にとっては企画の売り込みがピッチである。これだけ離れた意味が一つのカタカナに集まっているのだから、どこかで同じ語から枝分かれしたに違いない。そう思って英語の語源辞典 Online Etymology Dictionary の pitch の項を引くと、予想が当たったのは一部だった。

杭から、投球と競技場へ

同辞典によると、動詞の pitch は1200年ごろ、「杭を打ち込む、先のとがったもので突き刺す」意味で記録されている。13世紀半ばには「まっすぐ立てる」の意味が加わり、13世紀末にはテントを張ることも pitch と言った。14世紀末には「投げる、放る」の意味が見え、野球で打者にボールを投げる意味で使われたのは1868年とされる。

名詞の初出は、この順序と食い違う。クリケットの競技場を指す pitch、つまりウィケット(柱状の的)を立てる場所は1871年で、野球の投球の用例より3年遅い。ボールを投げる枝と杭を立てる枝は、同じ動詞から別々に伸びたことになる。サッカーやラグビーで競技場をピッチと呼ぶ英国流の言い方は、杭を立てる枝に近い位置にあると考えられる。ただし、これは推測で、語源辞典に直接の記述があるわけではない。

売り込みの意味は投げる枝から出たらしい。「長たらしく誇張した売り口上」の用例は1876年、現在のような広告の意味での sales pitch は1943年の米国英語とされる。同辞典はこれが野球の用語に由来する可能性を「おそらく」と留保つきで書いている。日本の広告業界や投資家向けの発表で使う「ピッチ」は、この系統の語が輸入されたものだ。

高さや傾きの枝

もう一つの枝は、動詞の「前下がりに傾ける」(1510年代)から出た。名詞の「傾斜」が1540年代、「最高点」が1550年代で、音の高さの意味は1590年代に現れる。音の高さを振動の速さで決まる性質として扱う音楽のピッチは、この系統にあたる。航空機の機首の上下を指すピッチも、傾きの意味とつながりがありそうだが、確認できた記述はなく、これも推測にとどまる。

端子の間隔やねじ山の間隔としてのピッチについては、この語源辞典の項に記述がない。傾斜や高さから刻みの幅へ意味が移ったのかもしれないが、裏づけは取れていない。

タールなどから採れる樹脂状の物質も pitch と書く。こちらは12世紀末に古英語経由で入った語で、ラテン語 pix にさかのぼる。杭を打つ動詞とは出自が別の語である。

音楽の基準ピッチは国際標準がA4=440Hzで、国内のオーケストラでは442Hzを使うことも多い。電子部品のヘッダーピンのピッチは2.54mm(0.1インチ)が代表的な標準値だ。同じカタカナに、Hz と mm という別の単位がついている。