用語

ポート

ポート

5つの業界で、それぞれ別の意味で使われています。

海運・貿易

左舷

port (side)

船首に向かって左側の舷(ふなばた)のこと。右舷のスターボードと対で使い、操船の号令や見張りの報告、接岸の方向を伝えるときに「ポート側」と言う。昔の呼称ラーボード(larboard)がスターボードと聞き間違えやすいため、19世紀に置き換えられたと説明される。港を意味する port とは別の意味で、綴りは同じ。

ポート側から岸壁に着けるので、左舷のフェンダーを増やしておいて。

インフラ・クラウド・セキュリティ

ポート(ポート番号)

port

1台のサーバーが複数のサービスを同時に提供できるよう、通信の受け口を区別する16ビットの番号。IPアドレスが機器を指すのに対し、ポート番号はその機器の中のどのアプリケーションに渡すかを決める。0〜65535の範囲があり、0〜1023はシステムポート(ウェルノウンポート)と呼ばれ、IANAによる割り当ての審査がもっとも厳しい。ファイアウォールでは、通すポートと止めるポートを設定する。

ファイアウォールで外部からの接続を許可するポートを443番だけに絞った。

医療機器

皮下埋め込み型ポート(CVポート)

implantable port

ポートとは、薬剤を体外から頻回に注入するための経路として、あらかじめ皮下に埋め込んでおく医療機器(消しゴム程度の大きさ)。

出典:独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)

抗がん剤や栄養の点滴などを繰り返す患者のために、薬剤を入れる注入口を皮下に埋め込んでおく器具。ポートから伸びるカテーテル(細い管)を血管内に留置し、皮膚の上から注射針を刺して薬剤を入れる。前胸部や前腕部に埋め込むことが多い。全体が皮下に収まり体外に開いた部分がないので、感染リスクを下げ、在宅での中心静脈栄養の管理もしやすくなるとされる。

化学療法が長期になるので、前胸部にポートを造設することになった。

自動車・輸送機器

吸気ポート・排気ポート

intake / exhaust port

エンジンのシリンダーヘッドに開いた、混合気や空気が入り、燃焼後の排気ガスが出ていく通路の出入口。吸気側はインテークマニホールド(吸気の分岐管)に、排気側はエキゾーストマニホールド(排気の集合管)につながり、吸気バルブ・排気バルブを通って燃焼室に通じる。吸排気ポートの形状は燃焼効率や体積効率を左右する要素の一つで、形を整えて流れをよくする加工をポート加工と呼ぶ。

このヘッドは吸気ポートの曲がりを緩くして、吸入効率を上げている。

音響・レコーディング

バスレフポート(ダクト)

bass reflex port

スピーカーの箱(エンクロージャー)に開けた穴や、そこに取り付けた筒。ユニット後面から出る音の低音域を、箱の中の空気のヘルムホルツ共鳴で増幅するバスレフ方式の要になる部分。ポートからはユニット前面の音と同位相の音が出て、波が強め合うことで低音が増す。前面に設けるもののほか、下面・上面・側面にポートを開けるタイプもある。

この小型スピーカーは、前面のバスレフポートで低音を補っている。

穴のポートと左舷のポートは、親の語が違う

エンジンの吸気口もポート、スピーカーの低音の穴もポート、パソコンの差込口もポートと呼ぶ。穴や出入口の名なのだから、船の左舷まで同じ名なのは、そこにも穴があるからだろう。そう思って辞書を引くと、予想が外れる。

Wiktionary は、英語の port を二つの語源に分けて載せている。一つはラテン語の portus、つまり港。もう一つは porta、つまり通路や門である。左舷は港のほうに入っている。古い船は舵取りの櫂を右側につけていたので、岸壁に寄せるのは左側になった。その側を、港の名で呼んだというわけだ。Wikipedia 英語版『Port and starboard』にも、右に舵があり、左が着岸の側だったという説明がある。左舷に穴は開いていない。

穴のほうは porta の側にまとめられている。船腹の開口(砲門を含む)、接続のための開口、弁座をもち流体の流れを制御する開口が並び、コンピューターのポートもそこに載っている。

エンジンの吸気ポートと排気ポートは、この「流体の流れを制御する開口」にいちばん近い。シリンダーヘッドの中で、マニフォールドと吸気バルブ・排気バルブのあいだをつなぐ通路である。ただし Wiktionary はエンジンの例を挙げていない。当てはまりそうだ、というところまでが確かなことだ。

スピーカーのバスレフポートは、箱に穴を開けて筒をつけたものである。Wikipedia 日本語版『バスレフ』は、ユニットの裏から出る音を、ポートから出る音と同じ位相にそろえて低音を強める方式だと説明する。ポートは前面のほか、上面や側面にも開けられる。

医療機器のポートは、穴と呼ぶには小さい。PMDA は「消しゴム程度の大きさ」と書いている。皮下にあらかじめ埋め込み、薬剤を入れるときだけ皮膚の上から針を刺す。IT のポート番号は、通信の受け口を番号で分ける。この二つの命名の経緯を述べた資料は、見つからなかった。Wiktionary がコンピューターのポートを門の側に載せているのは確かだが、理由は書かれていない。

並べると、綴りが同じ左舷のポートだけが、親が別だった。「ポート側から着けるので、左舷のフェンダーを増やして」と言われた乗組員が思い浮かべるのは、穴ではなく岸壁だ。