用語

プレス

プレス

5つの業界で、それぞれ別の意味で使われています。

広報・PR

広報担当(主にアパレル・ファッション業界)

press

アパレルやファッションブランドで、広報・PR担当の職種を指す呼び名。「広報担当」「PR担当」とも呼ばれる。ブランドや商品を多くの人に知ってもらうのが役目で、プレスリリースやカタログの作成、取材対応、雑誌などへの商品の貸し出し、展示会の企画・運営、SNS運用などを受け持つ。

新作の展示会に向けて、プレスがスタイリスト向けのサンプル貸し出しを調整している。

機械・生産

プレス加工

press working

金属の板を金型にはさみ、プレス機械で強い力をかけて、打ち抜き・曲げ・絞りなどの形に成形する加工。現場では加工そのものと、加工に使う機械(プレス機)の両方を「プレス」と略して呼ぶ。プレス機械・金型・被加工材(加工される材料)の3つがそろって成り立つ。

このブラケットはプレスで一発抜きできるので、切削より単価が下がる。

印刷・DTP・デザイン

プレス工程(印刷工程)

press

印刷の仕事を前・中・後に分けたときの、実際に紙などの媒体に刷る工程。プリプレス(印刷前工程)で作った刷版(印刷用の版)にインキをつけ、媒体に転写する。前工程のプリプレス(企画・デザイン・組版・製版など)、後工程のポストプレス(断裁・折り・製本など)と対で使われる。

プリプレスで刷版が上がったので、午後からプレスに回します。

音楽ビジネス・興行

プレス(レコード・CDの盤の製造)

pressing

レコードやCDの原盤(スタンパー)を成形機にかけ、盤を量産する工程。レーベルは音源を制作したあと、プレス工場に製造を発注する。アナログ盤ではラッカー盤から作ったスタンパーで塩化ビニルを挟んで成形し、CDでは溶かしたポリカーボネートにスタンパーの凹凸を転写する。

初回のプレスは500枚で、工場への発注は来週までに出します。

スポーツ・フィットネス

プレス(相手に圧力をかける守備)

pressing

サッカーやバスケットボールなどの球技で、守備側が相手のボール保持者に積極的に寄せて圧力をかけ、ボールを奪いにいく守備戦術。サッカーでは高い位置から仕掛ける「ハイプレス」や、ボールを失った直後にチーム全体で奪い返しにいく「ゲーゲンプレス」がある。バスケットボールでは、コート全面で圧力をかける「オールコートプレス」などがある。

前半は相手のハイプレスにはまり、最終ラインでパスミスが続いた。

押す機械が、取材する人と書かれる側を指すまで

アパレルブランドで「プレス」と呼ばれる人は、取材を受ける側にいる。記者に向けてプレスリリースを出し、雑誌にサンプルを貸し出す。同じ四文字が、印刷会社では刷版にインキをつけて紙に刷る工程を指し、金属加工の現場では、板を金型にはさんで成形する機械と、その加工の両方を指す。

取材される人、刷る工程、鉄を曲げる機械。互いに無関係に見える。ところが英語の press をさかのぼると、どれも「押しつける」という一つの動作に行き着く。

道具の名前から、仕事の名前へ

語源辞典 Online Etymology Dictionary によると、press は中世の頃から、布を押さえる道具や、ぶどうやオリーブ、りんごから汁や油を絞る道具を指していた。「印刷する機械」の意味が記録されるのは1530年代である。製造業のプレス加工が機械と加工の両方を「プレス」と呼ぶのは、この道具の系統にあたる。

印刷工程のプレスは、ヨハネス・グーテンベルクが1440年ごろに完成させたとされる印刷機の流れにある。インキをつけた版を紙に押しつけて刷る。片方は鉄板を曲げ、片方は文字を紙に写すが、どちらも押している。

機械が「人」になる順番

同辞典では、印刷機の意味はまず出版社や印刷物をつくる機関全体に広がった(1570年代)。「出版全般」の意味は1680年ごろ、新聞や定期刊行物、ジャーナリズムの総体を指す意味は1800〜1820年ごろに現れる。「ジャーナリストたち」という人の集まりを指す the press は、1921年からの記録である。「プレスリリース」は1918年、「プレスカンファレンス(記者会見)」は1931年で、いずれも20世紀に入ってからの語になっている。

機械の名前が、その機械で刷られるもの、刷る産業、そこで働く記者へと、順に移っていった。

アパレルのプレスは、FASHIONSNAP の解説では、記者に対してプレスリリースを出し、雑誌にサンプルを貸し出す側の職種とされている。英語の the press が記者の側を指していたのと比べると、向きが逆である。ブランドの中で記者応対の窓口を「プレス」と呼ぶようになった経緯は、今回確認できた資料には書かれていない。記者を相手にする部署の名前が、そこで働く人の呼び名にもなったのではないか、というのは推測にとどまる。

印刷の現場と並べると、位置関係はさらにねじれる。印刷会社で「プレス」といえば、プリプレスで作った刷版を刷る工程である。そこで刷られた雑誌や新聞の側に the press がいて、その誌面に載せてもらうために、アパレルのプレスは編集者のもとへサンプルを貸し出す。