リリース
リリース
6つの業界で、それぞれ別の意味で使われています。
新譜の発売・配信
release
楽曲やアルバムなどの音楽作品を新たに市場へ出すこと。CDやレコードの発売にも、配信サービスでの公開にも使い、「新曲をリリースする」「リリース日」のように言う。過去作を出し直す再発は「リイシュー」と呼んで区別する。
新曲のリリース日に合わせて、全配信サービスで同時に解禁する。
本番環境への公開・提供
release
開発したソフトウェアやその更新版を、テストを終えて本番環境へ配置し、利用者が使える状態にすること。リリース管理では計画・開発・テスト・準備・展開の段階を踏み、営業上の都合でコードを出す時期をずらすこともある。
夜間にリリース作業を行い、翌朝までに不具合がなければ告知を出す。
プレスリリース(の略称)
press release
企業や団体が報道機関に向けて新商品、経営、人事などを公式に発表する文書、またはその発表自体。現場では「プレスリリース」を縮めて「リリースを出す」「リリースを配信する」と言う。メディアを介さず生活者へ直接出すものを「ニュースリリース」と使い分ける会社もあるが、定義は定まっていない。
新サービスのリリースを今日の午前10時に配信します。
リリース(野球:投球でボールを離す瞬間)
release
野球の投球動作で、指先からボールが離れる瞬間。離す位置は「リリースポイント」と呼ばれ、投球の分析や指導で注目される。リリースポイントが打者に近いほど、打者は実際以上に球を速く感じるとされる。
今日はリリースが安定せず、高めに浮く球が目立った。
釣った魚の放流(キャッチ・アンド・リリース)
release (catch and release)
遊漁で釣った魚を生きたまま、釣った水域へ戻すこと。無益な殺生を避け、水産資源を守る狙いで行われる。河川や湖沼によっては規則でリリースが義務づけられる場合も、逆に禁じられる場合もあるため、漁協や自治体のルールの確認が要る。
この区間は釣った魚はすべてリリースするのが決まりです。
製造オーダーのリリース(発行・現場への払い出し)
order release
生産管理で、計画段階の製造オーダー(製造指図)を確定させ、製造現場で実行できる状態にすること。ERPではリリースを境に部品の引き当てや作業区の日程計画が行われ、現場からの実績報告を受け付けるようになる。
部材が揃ったので、明日分の製造オーダーをリリースした。
リラックスと同じ祖先を持つ語が、手を離れるものを指す
英語の release は、relax(くつろぐ)と同じラテン語 relaxare(ゆるめる)から出ている。語源辞典 Online Etymology Dictionary によると、release は古フランス語 relaissier などを通って13世紀末ごろに英語に入り、最初の意味は「取り下げる、取り消す、免除する」だった。relax は後からラテン語を直接借りた形で、同じ語が別の道筋で二度入ってきたことになる。「ゆるめる」と「手放す」は、もとは一つの動きだった。
その古い意味から、現在の「公開」へどうつながったのか。中間の経路は、今回の調査では確認できていない。確かなのは、六つの意味が、何が手を離れるかで二つに分かれることだ。
手そのものから離れるもの
野球のリリースは、指先からボールが離れる瞬間を指す。釣りのキャッチ・アンド・リリースは、手にした魚を水へ戻す動作を指す。どちらも文字どおり手を開くことで、語の古い感覚にいちばん近い。
作り手の手から離れるもの
音楽の新譜、ソフトウェアの新版、報道機関への発表文、製造現場に払い出す製造オーダー。こちらは物理的に何かを離すわけではない。作った側が日時を決め、そこから先を外の人に扱わせる。音楽には「リリース日」があり、ITには夜間の作業と翌朝の告知があり、広報には午前10時の配信がある。ITでは営業上の都合でコードを出す時期をずらすこともあると、リリース管理の解説にある。出せる状態になっていても、出す日は別に決まるわけだ。
広報のリリースは、press release の後半を落とした形である。一般に最初のプレスリリースとされるのは、1906年10月28日にペンシルベニア鉄道が起こした列車事故(アトランティックシティ)のあと、広報の先駆者アイビー・リーが報道陣に配った声明文だ。事故を伏せず、記者が別の経路で知る前に会社の側から文書を渡した点が新しかったと伝えられる。同月30日付のニューヨーク・タイムズは「Statement from the Road」としてその文面をほぼそのまま掲載したという。ただし「最初のプレスリリース」という位置づけは、あくまで「しばしばそう呼ばれる」という扱いである。
日本語の現場では、この press release が「リリース」と縮められ、音楽やITの「リリース」と同じ音で並ぶことになった。広報が「リリースを出す」と言い、開発者が「リリースを出す」と言い、音楽制作者も「リリースを出す」と言う。動詞の「出す」まで同じなので、同じ会議室に三人が座れば、誰の何の話かは前後から探るしかない。