ロール
ロール
6つの業界で、それぞれ別の意味で使われています。
役割(タンク・ヒーラー・DPS)
role
MMORPGなどのパーティー戦闘で、ジョブやクラスを担当の役割で大きく分けた区分。敵の攻撃を引き受けるタンク、味方を回復するヒーラー、ダメージを与えるDPS(アタッカー)の3つが基本。語源は演技の役を指す role。
このダンジョンはタンクとヒーラーが足りないので、ロールの募集枠を空けておこう。
Aロール・Bロール
A-roll / B-roll
編集で使う映像素材の区分。インタビューや会話など物語や話の本筋を担う映像がAロール、それを補って場面をつなぐ風景・手元・イメージカットなどがBロール。語は物理的なフィルムの巻き(ロール)に由来し、デジタル編集でも残っている。
インタビューの切れ目は、Bロールのカットでつないでおいてください。
圧延ロール
roll
鋼板や銅・真鍮板などの金属板を圧延する機械の、回転する円柱状の部品。材料に直接触れるワークロール(作業ロール)と、そのたわみを防ぐために接して補強するバックアップロールがあり、熱間圧延用と冷間圧延用でつくり方(材質や表面の焼入れ)が異なる。圧延の能率や品質、生産量に大きく影響する。
ワークロールの摩耗が進んだので、次の休止でロールを組み替えます。
ロール(機体の前後軸まわりの回転)
roll
飛行機が機首から尾部へ通る前後軸を中心に、片側の翼を上げ反対側を下げて傾く動き。エルロン(補助翼)が起こす動きで、機首の上下であるピッチ、ヨーとあわせて機体の動きを表す3軸の一つ。
突風でロールが出たので、操縦桿を逆に当てて水平に戻した。
ロール(コーナリング時の車体の傾き)
roll
カーブを曲がるとき、横向きの加速度で車体が外側へ傾く現象。傾きの大きさはロール角で表し、重心が高いほど、速度が高いほど大きい。左右のサスペンションをつなぐスタビライザー(アンチロールバー)などで抑え、ロール剛性の前後配分でハンドリングも調整する。
このSUVは背が高いぶんロールが大きいので、スタビライザーを太くして抑えた。
ロール(権限や機能をまとめた役割)
role
アクセス権限やサーバーの機能を、役割の単位にまとめたもの。RBAC(ロールベースのアクセス制御)では、権限をロールに紐づけ、ユーザーにはロールを割り当てるので、ロールの割り当てや削除でアクセスレベルをすばやく変えられる。Windows Serverでは、サーバーに追加する機能(IISなど)を「役割」(ロール)と呼ぶ。
閲覧だけの人には読み取り専用のロールを割り当てておいてください。
役割のロールは、もとは巻いた紙だった
ゲームの募集に「ロール:タンク」と書く。映像の現場では「Bロールでつないでおいて」と頼まれる。製鉄所では「次の休止でロールを組み替える」と言う。綴りは role と roll で違うのに、音は同じだ。偶然だろうか。
偶然と片づけるには、近すぎる。
英語の role は、1600年ごろにフランス語の rôle から入った。語義はそのまま、役者の台詞を書いた巻き紙である。役とは、もとは手に持つ紙の巻物だった。語源辞典の Etymonline によれば、さらに中世ラテン語の rotulus、小さな車輪を意味する rotula、車輪を意味する rota までさかのぼれる。Wiktionary は role を roll の二重語、つまり同じ語源から別の経路で分かれた語としている。
パーティーの戦闘で敵の攻撃を引き受けるタンクも、味方を回復するヒーラーも、巻き紙から出た語に区分されていることになる。システムの権限管理で、権限をまとめた「ロール」を人に割り当てるときも、使っているのは同じ巻き紙の先祖の語だ。ロールを割り当てたり削除したりすれば、一人のアクセスレベルをすばやく変えられる。
映像のほうは、巻きのままである。Aロール・Bロールの「ロール」は、物理的なフィルムの巻きだった。由来には説が分かれる。16ミリの原版を、奇数番のショットをAロール、偶数番をBロールに市松模様のように振り分けて切り、継ぎ目を目立たなくして焼き付けたという説明がある。一方、ジョン・プレマックは、二台の映写機に二本のリールをかけ、インタビューの音声を止めずに切り返しの映像を差し込むためだったと語っている。どちらが先かは、確かめられていない。
面白いのはその先だ。いまの現場で、Aロールはインタビューや会話など話の本筋を担う映像、Bロールはそれを補って場面をつなぐ風景や手元のカットを指す。フィルムの巻きを数える語だったものが、本筋と脇という担当の区別で使われている。語は巻きから出て、役のほうへ戻ってきたように見える。もっとも、これは私の見立てで、現場の人が意識しているかどうかは別である。
圧延ロールは、巻かれた物ではなく回る円柱のほうだ。鋼板やアルミの板を挟んで厚みを整える。材料に直接触れて圧延するワークロールと、それを後ろから支えるバックアップロールの二種類があり、前に出る役と支える役に分かれている。ここでも、ロールは担当で呼び分けられる。
ここまでのロールは、紙の巻き、フィルムの巻き、鋼の円柱と、手触りがまったく違う。それでも、ぐるぐる回るもの、巻くものという一つの形でつながっているように見える。飛行機のロールは、機体が前後の軸のまわりに傾く動きを指し、車のロールは、カーブで車体が外側へ傾く現象を指す。私の見立てでは、こちらは物ではなく、回る動きに名前がついたものだ。
パーティー募集の画面でタンクの枠を埋めるとき、ロールという語の先祖は、台詞を書いて巻いた紙である。