仕込み
シコミ
4つの業界で、それぞれ別の意味で使われています。
下ごしらえ・仕込み
prep
飲食店などで、料理の下ごしらえをする。また、料理を作ってたくわえておく。
開店前や営業の合間に、食材を切る、だしを取る、下味をつける、ソースや煮込みを作りおくといった作業を済ませておくこと。注文が入ったらすぐ出せる状態にするのが目的で、仕込みの量は予約数や天気から見積もる。料理人の一日は、この仕込みから始まる。
今日は予約が多いので、昼のうちに煮込みを倍量で仕込んでおいてください。
仕込み(劇場入り後の設営作業)
bump-in
公演の前に、舞台装置(大道具)の建て込み、照明機材の吊り込みと明かりの方向決め、音響設備の設営などを劇場内で行う作業。公演後に撤去して劇場を元の状態に戻す作業は「バラシ」と呼び、対になる。仕込みの段取りは、舞台図面や仕込み図をもとに各部門が分担して進める。
初日の前々日が仕込みで、照明の吊り込みは朝から始めます。
仕込み(もろみ造り)
brewing / mashing
日本酒造りで、米麹・蒸米・水・酒母(発酵を起こす酵母を育てた元種)をタンクに合わせ、もろみにして発酵を始める工程。雑菌の汚染を避けて発酵を安定させるため、麹や蒸米を一度に入れず、初添え・仲添え・留添えの三回に分ける「三段仕込み」が基本になる。初添えと仲添えの間の日は作業を休む(踊り)。
今朝から三段仕込みの初添えに入ったので、蔵人は全員タンクの前に集まってください。
仕込み(仕手株の買い集め)
accumulation
仕手株(資金力のある投資家やグループが意図的に値を動かそうとする銘柄)の動きのうち、株価を引き上げる前に株を大量に買い集める最初の段階。対象になりやすいのは出来高(取引された株数)の少ない小型株で、この段階では大きな値動きはなく、出来高がじわじわ増える程度とされる。その後、大量の買い注文や情報拡散で株価をつり上げる段階、保有株を売って利益を確定する利食いの段階へと進む。
出来高がじわじわ増えているが株価は動いておらず、仕込みの段階ではないかと警戒している。
桶にも杖にも弟子にも「仕込む」
厨房の仕込みと、劇場の仕込み。どちらも客が入る前に済ませる作業なので、同じ語であることに疑問は湧かない。ところがデジタル大辞泉(小学館)の「仕込み」の項を引くと、語義は7つ並んでいて、厨房と劇場はその中で離れた位置にある。
- 教え込むこと、しつけ。用例は「親方の仕込みがいい」
- 商品を仕入れること、飲食店で材料を下ごしらえすること
- 醸造業で、原料をまぜて桶に詰めること
- 芝居の開演の準備。またその費用
- 内部に装置すること。特に刀身を杖の中に込めて作ること
- 花柳界で、芸妓の見習いをしている少女(仕込みっ子)
- 「…仕込み」の形で、そこで身につけたものであること
料理は2番、芝居は4番で、間に味噌や醤油の醸造と、人を育てる意味がはさまる。2番は一つの語義の中に、仕入れと下ごしらえという二つの作業を同居させている。3番の醸造は、原料をまぜて桶に詰める作業として説明されている。
4番には「その費用」という添え書きがある。芝居の仕込みは、辞書の上では作業であると同時に、開演前にかかる金のことでもある。2番の前半の「商品を仕入れること」も、先に出ていく支出だ。厨房でも劇場でも、仕込みは手を動かす時間と先払いの金の両方を指してきたことになる。ただし、この二重性が両業界で同じ経緯で生じたかどうかは、今回確認できた資料からは言えない。
「込む」の字のほうは、推測になる。桶に原料を詰める、杖に刀身を込める、弟子に芸を教え込む。3番、5番、1番は、どれも「中に入れて、後で出せるようにしておく」形をしている。そう見れば、厨房の煮込みや下味は鍋や食材の中に手間を入れておく作業であり、劇場の吊り込みや建て込みは舞台の中に本番の仕掛けを入れておく作業と言えなくもない。語源の説明として確認できたわけではなく、仮説にとどまる。
精選版日本国語大辞典にも、仕入れ、醸造のための調合と桶詰め、教え込みなどの語義が並ぶ。
舞台の仕込みは、公演が終わると「バラシ」で元の状態に戻される。仕込み杖は、杖の形のまま、刀身を中に込めて作られる。