ST
エスティー
4つの業界で、それぞれ別の意味で使われています。
言語聴覚士/心電図のST部分
Speech Therapist(Speech-Language-Hearing Therapist)/ST segment
難聴や発声・発語などの障害(言葉によるコミュニケーション障害)、摂食・嚥下障害をもつ人に対して、検査や評価、訓練、指導、助言を行う専門職です。
医療現場では二つの意味で使われる。一つは言語聴覚士の略称で、リハビリ職種として理学療法士(PT)・作業療法士(OT)と並べて「PT・OT・ST」と呼ぶ。もう一つは心電図で、QRS波の終わり(J点)から T 波の始まりまでの平坦な部分を指す。「ST上昇」「ST低下」と書けば心筋梗塞や心筋虚血を疑う所見を指す。前者は人、後者は波形の区間である。
脳梗塞後の嚥下訓練はSTに依頼し、心電図ではV2〜V4のST上昇を確認した。
セキュリティトークン
Security Token
ブロックチェーンで発行・管理する、デジタル化された有価証券。日本では金融商品取引法の規制対象で、暗号資産とは扱いが異なる。株式や社債をトークン化したものと、信託受益権やファンド持分をトークン化したもの(電子記録移転権利)に分かれ、不動産を裏付けにした商品が多い。発行して投資家を募ることを STO(Security Token Offering)と呼ぶ。
この不動産ファンドはSTとして発行され、少額から証券会社経由で購入できる。
構造化テキスト(ST言語)
Structured Text
PLC(工場設備などを制御する専用コンピュータ)のプログラム言語規格 IEC 61131-3 が定める5言語のうち、テキストで書く高水準言語。Pascal に近い構文で、条件分岐や繰り返し、複雑な演算を書きやすい。日本で普及するラダー図(LD)に対し、数式処理や大規模な制御ロジックで選ばれる。
計算の多い部分はラダーでなくST言語で書いて、ファンクションブロックにまとめた。
ST形光コネクタ
Straight Tip
光ファイバ同士をつなぐ光コネクタの形式の一つ。直径2.5mmのフェルール(ファイバを固定する円筒部品)を使い、押し込んで回すバヨネット式で固定する。主に構内ネットワークのマルチモード配線で使われてきた。ねじ込み式の FC 形、押し込み式の SC 形と並べて呼ばれる。
古い構内配線の終端がST形だったので、SC形への変換アダプタを用意した。
STのSとTは、頭文字ではなく波の名前
病棟の記録に「ST」とだけ書いてあったら、言語聴覚士のことなのか、心電図のことなのか。前後の語で読み分けるしかない。ST は四つの業界で別の語の略として使われていて、そのうち一つだけは成り立ちが違う。
言語聴覚士は Speech Therapist、セキュリティトークンは Security Token、PLC の ST 言語は Structured Text、光コネクタは Straight Tip である。どれも二語の頭文字を取った、よくある略語の作りをしている。心電図の「ST部分」だけは作りが違い、S波と T波のあいだにある区間を、波の名前の記号を二つ並べて ST と呼ぶ。
波に付けた文字
心電図の波に P、Q、R、S、T という文字を付けたのは、オランダの生理学者ウィレム・アイントホーフェンとされる。最初は計測した曲線の波を A、B、C、D と呼んでいた。記録装置の慣性を補正した曲線を描き直したとき、別の文字が必要になり、P から始まる文字列が選ばれた。説明としてよく挙がるのは、デカルトが曲線上の点に順に文字を振った方法にならったというもので、O が原点にあたり、その次から P、Q、R と続く。後から新しい波が見つかっても文字を足せるようにしてあり、実際に T 波のあとに U 波が加わった。(この由来は医学史の解説に共通して書かれているが、アイントホーフェン本人の文章までは確認していない。)
ST の S は、アルファベット順で R の次に来た文字である。Speech の S でも Security の S でもない。T も、Therapist や Token の T とは関係がない。
同じ医療現場の二つの ST
医療の現場には、言語聴覚士と心電図の ST が並んでいる。前者は人で、リハビリ職種として PT(理学療法士)、OT(作業療法士)と並べて「PT、OT、ST」と書く。後者は波形の区間で、「ST上昇」「ST低下」と書けば心筋梗塞や心筋虚血を疑う所見を指す。
心電図の側にも P波や T波がある。リハビリ三職種の頭文字のうち P と T と S は、どれも心電図の波の名前としても存在する。もちろん偶然で、PT は Physical Therapist、心電図の P波と T波は別々の波である。それでも「PT」「ST」「ST上昇」が同じ週の記録に出てくれば、文字だけでは区別がつかない。冒頭の「ST」の一語も、前後に何が書かれているかで意味が決まる。