タップ
タップ
5つの業界で、それぞれ別の意味で使われています。
ねじ立て用タップ(めねじ切り工具)
tap
タップ(Tap)とは、金属加工において、穴の内側にねじを刻むために用いられる工具である。
下穴の内側にらせん状の溝を刻み、ボルトを締めるためのめねじを作る切削工具。おねじを切るダイスと対で扱われる。手作業ではタップレンチに付けて回し、機械に取り付けて使うことも多い。溝の形などで、ハンドタップやスパイラルタップなどの種類がある。
M6のねじ穴は、下穴をあけてからタップで立てておいて。
変圧器のタップ
tap
変圧器の巻線の途中から引き出した端子。どの端子につなぐかで巻数比が変わり、出力電圧を段階的に調整できる。タップを切り換える装置には、負荷をかけたまま切り換えるもの(on-load)と、回路を切り離して切り換えるもの(off-circuit)がある。
二次側の電圧が下がり気味なので、変圧器のタップを一段上げた。
ネットワークタップ
network tap
通信回線の途中に挟み、流れるパケットを止めずに複製して監視ツールへ渡す装置。スイッチのミラーポートと違い、回線を通る通信を取りこぼしにくい。侵入検知やパケットキャプチャ、障害解析に使う。
社内回線にタップを入れて、障害時のパケットを取れるようにした。
タップ(腹水などの穿刺)
tap (paracentesis)
体にたまった液を、針を刺して抜いたり採ったりする処置(穿刺)を英語で tap と呼ぶ。腹部に針を刺して腹水を抜く腹腔穿刺は abdominal tap、腰椎穿刺は spinal tap と言う。検査のために少量を採る場合と、腹痛や息苦しさをやわらげるために数リットル抜く場合がある。
肝硬変で腹部が張っているので、午後に腹水タップを予定しています。
タップ(樽生ビールの注ぎ口)
tap
樽につないで生ビールを注ぐ蛇口。「10タップ」「12タップ」のようにタップ数で数え、ビアバーの紹介ではタップ数が品ぞろえの多さを示す目安として使われる。クラフトビールを出す店では、タップの配分や入れ替えに店の方針が表れる。
うちは10タップで、そのうち4つは月替わりの銘柄にしています。
樽の栓だったタップが、回線では何も減らさない
「タップを入れておいて」と言われて手に取るものは、職場によって違う。機械加工の工場ならめねじを切る工具、変電所なら変圧器の端子、ネットワークの部屋なら回線に挟む小さな箱になる。ビアバーでは樽生ビールの注ぎ口で、病棟では腹水を抜く処置を指す。作業も道具も重ならないのに、同じ音で通じてしまう。ただの偶然だろうか。
いくつかは偶然ではないらしい。tap の古い意味は樽の栓である。古英語の tæppa は、容器の穴をふさぐ栓のことだった。動詞の tæppian は、容器に栓をつけることと、その栓から液を抜くことの両方を指した。栓を打てば、中身を好きなだけ汲み出せる。
この意味は、今も生きている。ビアバーのタップは、樽につないで生ビールを注ぐ蛇口で、「10タップ」「12タップ」と数えれば、同時に出せる銘柄の数、つまり店の品ぞろえの幅を表す。
回線のタップは、この「汲み出す」の延長にある。通信の線から情報を抜く動詞の tap は、Wiktionary によれば19世紀から使われている。南北戦争では、北軍も南軍も互いの電信線に取りついて通信を写し取ったという。ただし「wiretap」という語がいつ生まれたかは、調べた範囲では確認できなかった。
樽と回線で違うのは、抜いたあとである。樽は汲めば減る。現代のネットワークタップは、流れるパケットを止めずに複製して監視ツールへ渡すので、回線の側は何も減らない。
医療のタップは、体にたまった液を針で抜いたり採ったりする処置(穿刺)を指す英語の tap に通じる。腹部に針を刺して腹水を抜くのは英語で abdominal tap、腰椎穿刺は spinal tap と言う。
変圧器のタップは、巻線の途中から引き出した端子だ。途中から取り出す形は樽や電信線と同じだが、取り出すのは液でも信号でもない。どの端子につなぐかで巻数比が変わり、出力の電圧が一段ずつ動く。名前が樽の比喩から来たと書いた資料は見つからなかった。同じ形の動作が並ぶ、というところまでが確かなことである。
いちばん分からないのはねじ立て用のタップだ。穴の内側にらせんの溝を刻む工具で、穴に差し込んで使う点だけは栓と通じる。しかし名の由来を示す資料には当たれなかった。栓に似ているから、というのは推測にとどまる。
変電所で「二次側の電圧が下がり気味だから、タップを一段上げた」と言うとき、手を入れているのは巻線の途中の一点である。社内回線に挟んだ箱は、樽の栓とは逆に、何も減らさないまま、障害の起きた時刻のパケットだけを手元に残す。