略語

TAT

ティーエーティー

4つの業界で、それぞれ別の意味で使われています。

IT・システム開発

ターンアラウンドタイム(処理所要時間)

turnaround time

コンピューターに処理要求をした時点から、その処理が行われて結果の出力が完了するまでの時間。

出典:デジタル大辞泉(小学館)/Weblio辞書

システムの応答の速さを測る指標で、ジョブを投入してから結果がすべて出そろうまでにかかった時間をいう。実行を待たされた時間や入出力の時間も含めて数えるため、CPUが実際に計算した時間より長くなる。システム開発では、作業を依頼してから納品されるまでの期間の意味でも使う。

夜間バッチのTATが朝の始業に間に合わないので、処理を分割して並列化しよう。

医療・医学

検査報告時間(検査所要時間)

turnaround time

臨床検査で、検査が依頼されてから結果が医師に届くまでの所要時間。臨床検査室の品質管理の指標とされ、国際規格 ISO 15189 も検査室に TAT の設定と監視を求めている。検査項目ごとに目標時間を決め、遅れの原因を検体の搬送や分析の工程に分けて調べる。

救急の生化学検査はTAT 60分以内を目標に、検体搬送を見直した。

航空

折り返し時間/全温度

turnaround time / total air temperature

意味は2つある。運航では、機体がゲートに到着してから次便で出発するまでの地上時間で、降機・搭乗、貨物の積み降ろし、給油、清掃などをこの間に済ませる。短いほど1機が1日にこなせる便数が増える。計器の分野では Total Air Temperature(全温度)を指し、高速で飛ぶ機体のセンサーで空気がせき止められて温度が上がった分を含む値で、外気そのものの温度(静温度 SAT)とは区別する。

LCCは短いTATで1機あたりの1日の便数を増やし、機材の稼働率を上げている。

物流

車両の回転時間(到着から出発までの所要時間)

turnaround time

トラックが倉庫や物流センターに到着してから、荷下ろしや積み込みを終えて出発するまでの所要時間。荷待ちや検品で滞るとこの時間が延びるため、入荷・出荷作業の効率を測る指標として使われる。

検品の待ちが長く、センターでのトラックのTATが2時間を超えている。

船の出入りから始まった「折り返し」の時計

「TAT」とだけ書かれた紙を渡されたら、まず何の時間なのかを確かめたくなる。この略語には四つの業界に五つの意味があり、そのうち四つは英語の turnaround time、つまり折り返しの時間の略だ。ところが、何が折り返してくるのかは業界ごとに違う。

折り返してくるものの違い

  • IT:処理の依頼を出してから、結果がすべて出そろうまで。戻ってくるのは出力
  • 医療:検査の依頼から、結果が医師に届くまで。戻ってくるのは検査結果
  • 航空運航:機体がゲートに着いてから、次の便で出発するまで。戻ってくるのは機体そのもの
  • 物流:トラックがセンターに着いてから、荷役を終えて出るまで。戻ってくるのはトラック

ITと医療は、依頼を出した人のところへ答えが返るまでを測る。待たされる側の時計だ。航空と物流は、乗り物が向きを変えて出ていくまでを測る。こちらは止まっている設備の時計になる。

航空にはもう一つ、時間ではない TAT がある。計器の分野で Total Air Temperature、全温度を指す。高速で飛ぶ機体のセンサーで空気がせき止められ、温度が上がった分まで含めた値で、外気そのものの温度である静温度 SAT とは区別する。地上で過ごす時間と空気の温度が、同じ航空業界の中で同じ三文字になっている。単位も違うので、文脈のない紙が運航部門と整備部門に回れば、読み方は分かれうる。

語の出どころは、おそらく船

折り返しの時計の出どころを、英語の語源辞典 Online Etymology Dictionary で引くと、名詞の turnaround は1936年までに「船などの到着、荷降ろし、積み込み、出発」の意味で記録されている。「逆転・好転」の意味は1941年まで、「車が向きを変える場所」の意味は1954年までに現れる。到着から出発までを測る使い方は、航空機やトラックが普及する前、船の時代からあったことになる。

そうすると、航空運航と物流のTATは、この古い意味にいちばん近い。ITのTATは、バッチ処理で処理を依頼してから結果を受け取るまでの時間を指す用法として知られている。ただ、船の用法から借りたのかどうかは、今回確認した資料からはわからない。ここは推測にとどめる。

医療の検査室では、国際規格 ISO 15189 が TAT の設定と監視を求めている。時計を持つのは検査室だが、遅れの原因は検体の搬送から分析まで、工程ごとに分けて調べる。港に着いた船の時間を、荷降ろしと積み込みに分けて数えるのと同じ分け方である。