TD
ティーディー
5つの業界で、それぞれ別の意味で使われています。
テクニカルディレクター(技術責任者)
Technical Director
スタジオや中継の番組制作で、カメラ・照明・音声などの技術スタッフをまとめる技術面の責任者。日本のテレビでは、副調整室でスイッチャーを操作してカメラ映像の切り替えを兼ねることが多い。事前にディレクターと打ち合わせて技術的な助言や段取りを担うが、役割の範囲は局や番組によって異なる。
本番中はディレクターのキューに合わせて、TDがカメラ2から中継映像へ切り替えた。
テクニカルディレクター(舞台技術監督)
Technical Director
劇場や公演会場の技術面を統括する職。美術・照明・音響デザイナーの案が実現できるか、予算や工期に収まるかを見極め、大道具の製作や設営の図面と段取りを技術スタッフに渡す。会場の安全基準を守り、設備の保守を調整する役割も含む。
セットの図面は、TDが予算と搬入経路を確認してから製作に回した。
タッチダウン(アメリカンフットボール)
touchdown
アメリカンフットボールなどグリッドアイアン・フットボールの得点プレー。ボールを持って相手のエンドゾーンに入る、エンドゾーン内でパスを捕るなどして決まり、6点が入る。記録やスコア表記では TD と略される。
第4クォーターに2本目のTDを決めて逆転した。
タワーディフェンス
Tower Defense
押し寄せる敵の波を、ルート沿いに置いた防衛用のユニットや設備で迎え撃つ戦略ゲームのジャンル。設置場所の選び方や強化の順番が攻略の中心になり、守りを突破されて拠点が落ちると負けになる。「TD系」の形でジャンル名として使われる。
このゲームはTD系だが、キャラクターを育てる要素も強い。
遅発性ジスキネジア
tardive dyskinesia
抗精神病薬などドパミン遮断薬を長く使った後に現れる、顔や舌、手足の不随意運動。口をもぐもぐさせる、舌を突き出す、まばたきが増えるといった症状が出る。診療では薬の継続と症状のバランスを見ながら、原因薬の減量や中止・変更、治療薬の追加を検討する。精神科の文献や臨床では TD と略して書かれることが多い。
長期にリスペリドンを飲んでいる患者の舌の動きを見て、TDの可能性を疑って診察した。
TDだけが、名前に「遅れ」を持っている
稽古場で「TDを呼んで」と言えば、図面を抱えた舞台技術監督が来る。副調整室でTDと言えば、スイッチャーの前に座る人だ。病棟のカンファレンスでTDが出ていると言えば、薬の副作用の話になる。
舞台とテレビのTDは、英語の正式名称まで同じ Technical Director である。違うのは働く時刻だ。舞台のTDは、セットが予算と搬入経路に収まるかを、幕が上がる前に決める。テレビのTDは、本番の秒単位でカメラ映像を切り替える。
時刻の話をするなら、医療のTDがいちばん変わっている。tardive dyskinesia、遅発性ジスキネジア。口をもぐもぐさせる、舌を突き出すといった不随意運動が、抗精神病薬を長く使ったあとに現れる。名前の「tardive」は、遅れて来るという意味のフランス語 tardif から来ている。
では、なぜ名前に「遅れ」が入ったのか。口まわりの奇妙な動きを抗精神病薬の影響として最初に報告したのは、ドイツのシェーネッカーで、1957年のことだ。「tardive dyskinesia」という呼び名が文献に出てくるのは1964年で、デンマークのファーバイの論文とされる。薬を始めてから動きが出るまでに間があることを、名前そのものに入れたのだという。間が空けば、薬と症状は結びつけにくい。名前に時間を書き込んだのは、その見落としを防ぐためだったのではないか。ただしこれは私の推測で、命名の意図を述べた資料は確認していない。
医療のTDが「遅れて来るもの」なら、ゲームのTDは「先に置くもの」だ。タワーディフェンスでは、敵の波が来る前に、ルート沿いのどこに何を置くか、どの順に強化するかを決める。攻略の中心は、波が来る前の判断にある。判断が先、結果があと。医療とは時間の向きがちょうど逆になる。
アメリカンフットボールのTDは、時間を過去に向けている。タッチダウンは、もとはエンドゾーンでボールを地面につけて成り立つ得点だった。いまは持って入るだけで6点が入る。地面につける条件が消えても、名前は残った。
こうして並べると、二文字の中に、本番、幕前、投薬の何年かあと、敵が来る前、ルールが変わる前の呼び名がある。
アメリカンフットボールの中継で、スコアボードに「TD」と出る。その瞬間、副調整室のTDはもう次のカメラを選んでいる。