略語

VE

ブイイー

4つの業界で、それぞれ別の意味で使われています。

建設・建築

バリューエンジニアリング(価値工学)

Value Engineering

公共工事で、必要な機能と品質を保ったままコストを下げる案を検討する方式。国土交通省は検討する時期によって、設計段階の設計VE、入札時VE、施工段階の契約後VEに分けて進めている。契約後VEでは施工者が、同じ機能を別の工法や材料で実現する案を発注者に出す。

この建物の外壁材は、契約後VEで施工者から提案のあった材料に切り替えます。

機械・生産

バリューエンジニアリング(価値工学)

Value Engineering

製品の価値を「機能÷コスト」でとらえ、必要な機能を最小の総コストで実現する手法。製品の部品や材料が果たしている機能を洗い出し、同じ機能をもっと安い方法で満たせないかを組織的に検討する。日本バリュー・エンジニアリング協会は、この考え方の資格(VEL・VESなど)も認定している。なお既存製品に適用するものをVA(価値分析)と呼び分ける場合もある。

この部品は機能分析をやり直して、VEで材料費を2割下げる案をまとめた。

医療・医学

嚥下内視鏡検査

videoendoscopic evaluation of swallowing

鼻から細い内視鏡(ファイバースコープ)を入れ、のどの形や動きを直接見て、飲み込みの状態を調べる検査。声帯の閉じ方、唾液や分泌物のたまり方、食べ物がのどに残るか気管に入るかを観察する。外来や病棟のベッドサイドで繰り返し行える。

誤嚥が疑われる患者に、VEで食べ物の残り具合を確認した。

製薬・創薬

ワクチン有効率(ワクチン有効性)

vaccine efficacy / vaccine effectiveness

ワクチンの効き目を示す指標で、接種しなかった場合と比べて発症の確率が何%下がったかを表す。VE=(1-相対リスク)×100で求め、VE80%なら発症が8割減ったことになる。承認審査に使う第III相の臨床試験の結果はefficacy(有効率)、市販後の実際の接種状況での結果はeffectiveness(有効性)と呼び分けるが、どちらもVEと略す。

第III相試験の結果、このワクチンのVEは90%と報告された。

VEは同じ二文字の中でも、さらに分かれる

「このワクチンのVEは90%」という報告を読んで、どちらのVEか迷う人はいないだろう。迷うのは別のところだ。ワクチンの世界には、VEと略す語が二つある。治験の結果を指すefficacy(有効率)と、市販後の接種状況での結果を指すeffectiveness(有効性)である。数字の誤読が許されない分野で、なぜ二つが同じ二文字を分け合っているのか。

計算が同じだからだ。接種しなかった場合と比べて発症が何%下がったかを、(1−相対リスク)×100で出す。VE80%なら、発症が8割減ったことになる。違うのは数字の出どころだけで、承認審査の第III相試験で出ればefficacy、実際の接種のあとで出ればeffectiveness。式は変わらないので、略語も変わらない。

この「出どころの違いを、略語ではなく文脈に預ける」やり方は、ほかの業界のVEにもある。

公共工事のVEは、必要な機能と品質を保ったままコストを下げる案を検討する方式だ。国土交通省は、これを検討する時期で三つに分けている。設計段階の設計VE、入札時VE、契約後VE。契約後VEでは、施工者が同じ機能を別の工法や材料で実現する案を発注者に出す。「VE」と書かれた書類が、設計図の段階の話なのか、もう工事に入った施工者からの提案なのか、略語だけでは区別がつかない。

製造業のVEは、製品の価値を「機能÷コスト」でとらえる。部品や材料が果たしている機能を洗い出し、同じ機能をもっと安く満たす方法を探す。こちらは、すでにある製品に当てるものをVA(価値分析)と呼び分ける場合がある。分ける軸は、時期ではなく、相手が新しい設計か既存の製品かである。

ここで、ひとつ気づくことがある。製造の「材料費を2割下げる」も、ワクチンの「発症が8割減る」も、現状やワクチンなしを基準にした下がり幅の話だ。基準を何に置くかで同じ数字の意味が変わる点も似ている。もっともこれは、二つを並べた私の見立てで、どちらの資料もそう述べているわけではない。

医療のVEだけは、この分け方から外れる。鼻から細い内視鏡を入れ、のどの形や動きを見て飲み込みの状態を調べる嚥下内視鏡検査で、略語を割る軸は見当たらなかった。外来でも病棟のベッドサイドでも、同じ検査を繰り返し行える。

病棟のホワイトボードに「VE」とあれば、誤嚥が疑われる患者の検査だ。設計事務所の打ち合わせなら、外壁材の切り替え案。製薬の会議なら、第III相試験の90%。同じ二文字の下で、検査、工事の時期、治験か市販後かが、それぞれ静かに分かれている。